14:不眠不休食事なし

 午前中に切り倒した雑木林の木は結構な量があり、槍だけを使って薪割りをし続けたところ夕方近くにまでなってしまった。


 その間私は一向に疲労した様子もなければ、喉の渇きも空腹も感じることもなく、一切休むことなく槍のみを使って薪割りをした。


 最初は非常に時間がかかったのだが、夕方近くになる頃には自分でもおかしく思えるくらい器用に槍を扱えるようになっていた。


 まず槍で木を突き刺して引き寄せ、素早く引き抜いてから、枝ごとお構いなしに半分に切り、さらにその半分をまた半分に切るというのを繰り返していった。


 木の幹に近い部分は槍先で器用に立たせて、倒れる前に真っ二つに切った。これを延々午後1時過ぎから行って現在午後6時近くまで繰り返していた。大体切り倒した木の7割程を全て薪にしたところで暗くなったのでやめることにした。


 それまで夢中になって槍の扱いにのみ集中していたので、ようやくあらためて薪を見てみると山のような数の薪が積まれていた。


 それだけ身体を動かしたにもかかわらず、やはり大して汗はかいておらず、疲労感も空腹感もなく、軽くシャワーを浴びることにした。


 食事を用意する必要もなく、寝入るまでの時間がとても長く感じて退屈を持て余し、早く明日にならないかと待ち遠しかったが、明日もイエロースライムゼリーを速攻で倒してしまったら、その後がヒマでしかたなくなるぞと思い、どうしたものかと思案した。


 私はふと思いつき高専時代に手に入れたタブレットPCを久しぶりに取り出して、これまでの出来事をテキストに書きだすことにした。またスマホで槍とプロテクターとスライムゼリーを写真や動画で撮影した。明日はスライムや通路や部屋を撮影しようと思った。さらにせっかくだから三脚を購入しようとネットで物色して、5千円前後のものを買ってしまった。


 ちなみに私名義の貯金残高はまだ6千万円程も残っている。両親がしっかり生命保険と自動車保険に加入していてくれたおかげだし、築3年の家が売れてくれたおかげだ。半分くらいは中学の時の先生が教えてくれた優良企業の株式をまとめたものに長期投資するのもいいかもしれない。


 あれこれネットで情報収集しているうちに、気が付いたら夜が明けていた。驚いたことに全く一睡もしていなかった。しかもまるで眠くなることもなく、気怠さなども全くなく、なんならまだまだ元気一杯といった感じだった。


 ともあれ待ちわびた朝になったので、まだ朝4時台だというのに私は装備を整えてスライム部屋へと向かって行った。


 まずは古墳の前で写真をとり、そのまま動画撮影モードにして中に入って青黒い石の回廊を撮影し、振り返って元の世界も撮影した、そして回廊を進んでスライム部屋の扉を撮影し、いったん槍を置いてスマホを片手にもう片方の手で向かって左側の扉を開けた。槍を拾って部屋の中に入り、扉が閉まっていく様子も撮影し、イエロースライムから5メートルの距離まで近づいてからスマホカメラをズームにして、イエロースライムをアップで撮影した。


 もうこのままスマホ片手にイエロースライムを倒してしまおうかと思いつき、危険ではあるがやってみることにした。


 スマホを見ながらだと失敗しそうなのが分かったのでとりあえず写っているだろうと想像して、スマホ画面ではなく実物を見ながらタイミングを待ち、ここだというタイミングで槍を突き刺した。


 昨日の特訓の成果が十二分に発揮されて、槍がまるで自分の手の延長のように思った通りに動いて、全く危なげなく何の緊張感もなく1匹目を倒した。


 いったん後ろに下がり、まだ生きているスライムが3匹もいるというのに、今撮影した動画がどうなっているかその場で確認するという余裕ぶりだった。


 一応ちゃんと撮れてはいたが、やはり手ブレが結構あって、あまり良い動画とはいえなかった。つい今度小型のアクションカメラを買おうかと思ってしまった。


 自分は頭を振って今日の目的を思い出し、すぐに戦闘を終わらせるのではなく、なるべく時間をかけてじっくりと有意義にイエロースライムとの戦闘を行うことにした。


 自分は槍を置いていつでもステップワーク移動出来るように軽やかに跳躍しながらイエロースライムに近付いた。ジグザグにステップしながらイエロースライムに近づいて行き、5メートルの距離からサッと4メートルの距離に移動してすぐさま後退したが、イエロースライムは攻撃してこなかったので、3メートルの距離に移動してすぐに後退したところ、イエロースライムは一瞬ブルっと震えたかに見えた。


 なるほどイエロースライムはどうやら3メートルが探知距離らしいと判断し、もう一度3メートルの位置に移動して、わざとそこで停止したところ、明らかイエロースライムはブルっと震えてこちらに体当たりしてくるのが分かったので、しっかり目を逸らさずにこちらに飛び掛かるのと同時に後ろにバックステップした。


 イエロースライムの体当たり速度よりも私のバックステップ速度の方が速く、移動距離も私の方が遠く移動出来た。私は「ヨシッ!いけるッ!」と思い、ひたすらイエロースライムの攻撃を回避することにした。


 これには5つの目的があり、一つ目はイエロースライムのスタミナ切れがどの程度なのか知ること、二つ目は私が飲まず食わずでどこまでスタミナが続くのか知ること、三つ目は時間をかけること、これはすぐにイエロースライムを倒してしまったらその後の時間が退屈になるのを避けるためだ、四つ目はステップワークのレベルをあげること、五つ目はレベルが2のままのキックのレベルをあげること、以上5つの目的を今回の戦闘目的として昨晩考えていたのだ。


 こうして2匹目のスライムからは長丁場覚悟でスタミナ合戦といくことにした。


 ところがイエロースライムは30分程で動かなくなり、結局最後はジャンプして中心核を踏みつけてスライムを倒してしまった。残る2匹もそんな調子で倒してしまったので、なんとまだ朝の6時前だというのにその日のお楽しみが終わってしまった。


 とりあえず最後の1匹を倒したことで出現したイエロースライムゼリーを拾って、私は少々ガッカリした気持ちで帰宅した。それから先の1日のなんと長い事、薪割りの続きをしたり、小型のアクションカメラとヘルメットにアクションカメラをマウントするパーツを調べたり、資産運用について調べたり、あれこれやって時間を潰したがそれでも時間はたっぷり余り、1日を消化するのにほとほと退屈した。


 明けて翌朝、なんと昨晩も一睡もせず一切何も口にせずに過ごしたのだが、健康面に何ら問題はなく、それどころか待ちわびた朝が来たということで元気いっぱいで気分も爽快だった。


 早速今日も装備を整えてスライム部屋に向かったのだが、今日は昨晩思いついたアイディアを試すのが楽しみだった。そのアイディアとはボススライムを倒した時に得た回復魔法を試すことである。


 まずはイエロースライムの動きが弱まるまで回避し続け、大体20分過ぎた辺りでイエロースライムの動きがかなり遅くなったところで敢えてイエロースライムの体当たりを真正面から受けてみることにした。もちろんいざという時のために濃い青のスライムゼリーもポケットに入れてある。


 動きが大分遅くなっているので、攻撃のタイミングも手に取るように分かり、自分は左足を前に右足を後ろにしてしっかりと踏ん張り、イエロースライムの体当たりを目をそらさずに見続けて真正面から受けた。


 ドウン!という強い衝撃と共に自分の身体は後方に吹っ飛んだが、以前初めてスライムの攻撃を受けた時とは異なり、姿勢は維持したまま後方にスライドするように後ずさった。その後すぐに今度は自分の力でバックステップして距離をとり、自分の身体に異常はないか確かめた。


 イエロースライムの体当たりを食らった時は胸に衝撃を感じたが、今回は戦利品のプロテクターをしている上にかなり弱りかけたイエロースライムの攻撃なので、そもそもどこも何ともなかった。

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