13:イエロースライムゼリーの効果

 お爺さんの家の庭を綺麗すっかり整地し終えたことに気分を良くした私は、今度は物置小屋の後ろにある鬱蒼とした雑木林を綺麗にしようと意気込んだ。


 雑木林といえども、本格的な森でもなければ大木が生えているわけでもないので、目検討で短剣の刃渡り40センチを超える程の幹の木はなさそうだから、このまま槍を使って木を切り落とすことにした。


 先ほどと異なり今度は雑草ではなく木が相手である。細い木がほとんどだが直径にして短剣の刃渡りと同じくらいの太さの木もある。そのため私は腰を捻り力を込めてフンッと息を吐くと共にまたしても薙刀の様に槍を右から左に薙ぎ払った。


「あっ!いけねっ!」


 薙ぎ払ってから私は大失態をおかしてしまったことに気が付き大慌てですぐに槍を確認した。私は冷や汗をかきながらステンレス製の物干し竿がひしゃげて曲がっていないか確認した。


 そちらの方に全神経がいってしまい、切断された木々が大きな音を立てて地に落ちていることにすら気が付かない程だった。


 私は自作の愛する槍をくまなくチェックして、どこにも異常がないか丹念に調べた。そしてどこにも異常が見当たらないことを確認して「ハァーッ」と大きく安堵のため息をついた。


 そしてようやく顔をあげると目の前の雑木林の一角がものの見事に綺麗さっぱりスッパリと切断されているのに気が付いた。


 近づいてみると、大きなもので直径30センチはあろうかという木ですら一刀両断されており、しかもその断面たるや実に美しい程に切断されていた。


 私はこれでまだ自分がレベル4だとは信じられなかった。このままいったらレベル99とかになったら、鉄筋コンクリート製の大型ビルですら切断出来るのではないかと思ったが、さすがにその時は槍の柄がポッキリ折れるかと苦笑した。


 その威力に驚きながらも感動し、一応暴風林と目隠しの役割として必要な分の木を2列分程残して綺麗に不要な木を切り倒した。切り倒した木は後で細かく切って薪ストーブ用の薪にすることにした。そして今度は物置小屋からクワを取り出し木の根っこを全て掘り起こして整地することにした。


 普通なら造園や外構職人が複数人で、小型のショベルカーなども用いて行うところをたった一人の人力のクワのみで木の根っこを掘り起こしていった。どんどん木の根っこを取り出し、穴を掘って埋めていった。


 またしても休憩もせず水も飲まず延々と作業し続けて、とうとう物置小屋の周りすらすっかり綺麗に整地してしまった。時間を確認すると午前11時ということで、そこでようやくシャワーを浴びてスーパーに行こうかと考えた。


 家に戻りシャワーを浴びたのだが、思いのほか汗はかいておらず、どちらかというと土埃を流し落としたというところだった。


 シャワーから出て、普通なら水の一杯でも飲みたくなるところだが、不思議なことに喉の渇きはなく、しかもこれまで休みなく動き続け、間もなくお昼になろうとしていることから凄く空腹になるはずなのに、一向に腹が減らないことにようやく気が付いて、これはおかしいと思った。そして何か思い当たる事はないかと考えたところ真っ先に思いついたのがイエロースライムゼリーだった。


 私は冷蔵庫にしまっておいたイエロースライムゼリーを取り出して皿に乗せてじっくりと観察した。相変らず鼻を近づけるとコーンスープのような良い匂いがして空腹でもないのに食欲が湧いてくるようだった。私はもっと良く観察した。とりわけひと口かじった断面をよく見たが、特に汚れているとか雑菌などで痛んでいるといった様子は伺えなかった。


 私は包丁を取り出して歯でかじった部分を切除するようにカットした。これでイエロースライムゼリーは残り半分程になった。


 私がかじった部分のイエロースライムゼリーをどうしようかと考えたところ、突然牛乳と一緒に煮込んだらどうなるだろうという、我ながらおかしなことを思いついた。


 早速試してみようということで、一番小さな取っ手付き鍋を取り出し、牛乳パックにコップ2杯分もないくらい残っていた牛乳を全て入れ、さらにそこにイエロースライムゼリーを入れてガスコンロに火をつけて煮込み始めた。


 すぐに沸騰しそうになったので弱火にしてコトコトと煮込み始めた。スプーンでかき混ぜてみたが、なかなかイエロースライムゼリーは溶けなかった。もしかしてイエロースライムゼリーは溶けないのではないかと少し心配しながらスプーンでかき混ぜていたところ3分を過ぎたあたりでゆっくりと融解していった。


 「やった!」と思わず声に出して喜びながら、それでもスプーンをかき混ぜる手は止めずに見守り続けるとやがて牛乳は黄色い色に変わり、まさにコーンポタージュスープのような非常に食欲をそそる香りの湯気が鼻腔をくすぐった。


 イエロースライムゼリーが完全に溶けきったのを確認してから火を止めて、マグカップを持ってこようとしたが、何故か量がかなり増えていたので、シチュー用のお皿に変えた。


 鍋からお皿に移し替えて食卓に運んで、早速飲んでみることにした。考えてみればまったく味見することなく作ってしまったことに後から気が付いた。


 さっきまでかき混ぜるのに使ったスプーンですくってフーフーと息を吹いて冷まし、期待に胸を膨らませてスプーンを口に入れた。


 スプーンに入っていたスープが舌に移った途端、素晴らしい旨味が口いっぱいに広がった。単に牛乳で溶かしたコーンスープの素とは思えない程に濃厚で、しかもスープなのに何故かしっかり食べ応えのある完全な食事としての感覚があった。


 寮生活から卒業後、正直これまでの私の食生活はあまり褒められたものではなかったが、今口にしているスープはこれまでの短い人生経験の中でも最上級に美味しい食べ物だった。


 私は手を止めることなく一心不乱にスープを飲み続けた。あまりにも美味しいので、最後に残った食パンで皿を拭くようにスープを拭って口にした。小さな鍋にびりついたスープですら拭って食べた。とても他人には見せられないものだったが、それほど美味しくてもったいなかったのだ。


 そうしてイエロースライムゼリーを牛乳に溶かしたスープを食べ終わった私はとてもお腹がいっぱいになった。午前中の肉体労働による疲労は一切なかったのだが腹一杯になった満腹感と幸福感でこれまでの疲れは全てなくなり心身共にリフレッシュした。


 その後お爺さんの原付バイクに乗ってスーパーへ買い物に出かけたのだが、全くお腹が空いていないので、もしかしたらイエロースライムゼリーがあればしばらく飲まず食わずでも平気なのではないかと考え、スーパーでは日持ちする乾燥麺のそばと業務用で安売りしていた冷凍食品の炒飯やピラフを数種類とレトルトのカレーや親子丼などの数種類の丼の具を買うことにした。米についてはまだ結構残っているので買わなかった。


 牛乳の補充をどうしようか考えたが、消費期限があるので買わずに、その代わりシチューの素を買った。これで水とシチューのルーがあればイエロースライムゼリーを溶かしてスープが出来ると考えたのだ。


 お爺さんの原付に乗りながら、果たして今日食べたイエロースライムゼリーでどの程度空腹がしのげるのかなどと考えながら帰宅した。


 家に着いてもまだ午後1時台ということで、午前中に伐採した木を集めて薪を作ることにした。物置に薪割り用の斧もあったが、槍の練習になるかということで槍を使って薪割りをすることにした。


 木そのものは難なく切れるし体力にも問題はないし、時間もタップリあったので、器用に槍を扱えるように全て槍だけで行うことにした。

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