15:回復魔法
イエロースライム部屋に挑んでから3日目、今回の私の目的はボススライム戦で得た回復魔法を調べることだった。
しかし以前戦利品で手に入れたプロテクターの性能が良い事と、今目の前にいるイエロースライムが既に弱っていることから、攻撃を真正面で受けたにもかかわらず私の方はまったくダメージを受けていなかった。
私はそこで無謀にもプロテクターを脱いだ。
自分でもなかなか正気の沙汰とは思えない行為だと思ったが、それくらいしないと今の自分と目の前のイエロースライムの状態では全く怪我をするようには思えなかったのだ。
さすがに恐ろしいのでフルフェイスヘルメットは被ったまま、厚手のトレーナーとヒザとヒジのバイク用プロテクターをつけたおかしな恰好で、弱っているイエロースライムへと近づいた。
さっきの体当たりで相当スタミナを持っていかれたのかイエロースライムはますます弱まっているように見えた。それでもまだ何とか動くことが出来るようで、これはむしろ好都合だと考えた。
私は3メートル以内に近付いて、もう一度左足を前に右足を後ろにしてしっかり踏ん張った。
イエロースライムはさっきよりも明らかにゆっくりした動きで表面をへこませてブルッと震えてからこちらに体当たりしてきた、私の目には実にスローモーに見え、そのままイエロースライムが私の胃の辺りに激突するところまでハッキリと見続けた。
「ゲェッ!」
当然私は激突の瞬間腹に思いっきり力を込めたのだが、強烈な激痛と共に今度は身体をくの字に折り曲げて後方に吹っ飛んだ。
あまりの痛みで目を開けていられず強く閉じていたのだが、何故か閉じた目のまぶたの裏にゲームでよく見るゲージのようなものが表示されていた。
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生命力:40⇒35
魔法力:40
持久力:40
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私は心の中で「回復ッ!」と叫んだ。すると痛みがスーッと引いて行きまぶたの裏に表示されているゲージが次の様に変化した。
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生命力:35⇒40
魔法力:40⇒35
持久力:40
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そしてさっきまでがウソのようにまるで何の痛みもなくなり、私は完全に健康な状態に回復してすぐに起き上がった。
そしてイエロースライムを探したがどこにもおらず、遠くにまだ相手にしていない3匹がいるだけだった。
私は「やった!」と声に出して喜んだ。痛い目にあったばかりだというのにやったと喜ぶといういささかマゾヒズム的ではあったが、なんとか健康なままで回復魔法の効果が分かったので大いに目的達成感があった。
なるほど戦利品のプロテクターがないと、弱ったイエロースライムといえどもこれ程までに痛い目にあうのかと感心した。そしてそのイエロースライムだが、恐らく最後の体当たりで自身もダメージを追って消滅したのだろう。なるほどなるほどと何度もニンマリした表情で頷き感心した。
そこで私はさらに危険なアイディアを思いつき、しかもそれを実践してみようとまで思った。
その危険なアイディアとは、まだ弱まっていないイエロースライムの攻撃の威力がどれ程のものなのかを試すというものである。
私は目を閉じてしっかり考え、具体的にどのように行動するか検討した。その結果左腕を犠牲にすることを思いついた。
私は何度も深呼吸をして自らの恐怖心と闘い、意を決して2匹目のスライムに挑むことにした。犠牲にするのは左腕なので一応プロテクターを着込んで胴体は守ることにした。
先ほど攻撃を食らったばかりなのでやはり恐怖心はぬぐい切れず、昨日までは何の恐怖心もなく全くの無傷で余裕で倒してきた相手なのに、今は恐怖で心臓の鼓動が頭に響くほどだった。
それでも私はまだ完全に元気なイエロースライムの攻撃を受けることにした。恐らく左腕はただでは済まないだろう。
何度も頭の中でイメージし、強制的に何度もウンウンと頷いて納得させ、念のため右手に濃い青のスライムゼリーを手にしていよいよイエロースライムの対象察知圏内へとステップインした。
極度に緊張と集中をしていたので、またしてもまるで時間が止まったかのようにスローモーに見えて、イエロースライムの表面がへこむ様子もハッキリ分かり、私は目をそらさずにしっかりと見続け、左手を広げて半歩右に移動を開始した。
次の瞬間イエロースライムが私の左腕に激突したのを見た。
そして私は身体ごと左に回転して吹き飛んだ。
私は吹き飛ばされて尻餅をついたが、腕の痛みはほとんどなく、トレーナーの腕をまくって目で見て確認してみると青アザが出来ていて、少し鈍痛のようなものを感じるが、普通に動かすことが出来た。そして目の前のやや上方にゲージが表示された。
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生命力:40⇒39
魔法力:35
持久力:40
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私はバックステップして距離をとり考え込んだ。
間違いなくスタミナ十分のイエロースライムの体当たりをまともに左腕に受けたはずなのに、受けたダメージはわずか1であり、実際傷みもほとんどなかった。さっきは瀕死のイエロースライムの体当たりを食らって悶絶する程の痛みを味わい、受けたダメージも5だったのに、何故このような結果になったのだろうか。
そこで私は一つの仮説を立てた。前に戦利品で獲得したこのプロテクターは、もしかして胴体以外の箇所にも防御効果があるのでないだろうか、と。
どうやってそれを立証しようかと考えたが、さすがにフルフェイスヘルメットを脱いで頭で攻撃を受けるのは心理的にもリスク的にも無理だ。ならばどうすればいいのか、足で攻撃を受けるとしてもそううまくイエロースライムの体当たりを足で受けることなど出来るだろうか、少し想像してみたが今の私には出来そうにもない。
とりあえずもう一度左腕でイエロースライムの体当たりを受けることにした。先ほどと同じ要領で左腕にイエロースライムの体当りが直撃するのをしっかりこの目で確認したが、やはり結果は先ほどと同じでゲージも次の様に表示された。
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生命力:39⇒38
魔法力:35
持久力:40
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私はやはりプロテクターの効果が腕にも及んでいると思った。そしてそれを証明するために、私はまたしても危険を冒すことに決めた。
私はいったん後ろに下がってプロテクター脱ぎ、もう一度左腕でイエロースライムの体当たりを受けることにした。
やはりプロテクターを脱いだだけで一気に恐怖心が高まった。それでも知りたいという欲求の方が勝り、意を決してイエロースライムの前に出た。
3度目なのでタイミングを間違うこともなく、私は左腕を上げてスライムが激突する瞬間を目で追いかけた。
次の瞬間私は自分の左手が無残にもひしゃげていくのをその目でまざまざと見た。
私はすぐに大きくサイドステップをした。まず痛いというよりも熱ッ!という感覚がして、その次に遅れて強烈な傷みが襲ってきた。
私は思わず絶叫した。恐る恐る左手を見るとあらぬ方向に腕がねじ曲がっており皮膚から骨が突き出ていた。私はもう一度絶叫し力いっぱい目を閉じて歯を食いしばり、心の中で「回復ッッッ!」と叫んだ。
またしてもまぶたの裏にゲージが表示された。
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生命力:38⇒33⇒40
魔法力:35⇒28
持久力:40⇒39
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そして今のは一体なんだったんだ?っていうくらいすぐにあっけなく完全に痛みは消えてなくなり、左腕を見ると全くの無傷な状態に戻っていた。
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