11:ボススライム撃破

 ひたすら地道な作業ともいえる攻撃を、心が折れて諦めそうになるのをこらえてひたすら繰り返すことおよそ8時間、とうとうボススライムに念願の変化が現れた。


 軽自動車並みに大きなボススライムの大きな中心核が白っぽく濁っているように見えたのだ。


 私は安全距離で手を止めて目を細めて中心核をよく観察した。すると白っぽく見えるのは無数に刻まれた細かい亀裂であることが分かった。


 私は一気に明るい気持ちになった。これまでの地道な努力は無駄ではなかったのだ。スライムゼリーを食べたわけでもないのに一気に力がみなぎってくる感じがした。そして私はここで危険なリスクを冒すことに決めた。


 ある程度の被弾は覚悟で、もっと踏み込んで攻撃威力を高めようと思ったのだ。つまるところラストスパートである。


 私は正確に距離を目測し、これまでよりもさらに1メートルは槍を突き入れたいと考えた。しかもどうせ被弾覚悟ならば片手ではなく両手持ちで力を込めて突き刺そうと考えた。


 いったん後ろに下がり、槍の後端を両手で握り突進と同時に身体を伸ばして槍を突き、その後身体が最も伸びきったところでその反動を利用して後ろにジャンプする練習を数回繰り返した。


 後は恐怖心という心の問題だけだが、今は気分が高揚しているので「やるぞ!」という気持ちの方が勝っており、この気分のうちにせめて初撃だけでも全力を尽そうと思った。恐らく被弾して一度痛い目にあえば恐怖心で萎縮してしまいそうだからだ。


 私はフーッと息を吐き脳内で先ほどの動きをイメージして両手で槍を持った。「いちにぃさんいちにぃさん」とリズムを刻み心が「ここだ!」と思う瞬間を待ち、数十秒が経過したところで「ヨシッ!今ッ!」と閃いたので私は弾かれたバネのように突進した。


 一瞬突進し過ぎたと思ったが、構わず身体を思いっきり伸ばして槍を突き刺した、そのまま中心核を貫け!という思いを込めて突き刺した。8時間以上もボススライムに攻撃し続けて、今ようやく初めて手応えを感じた気がした。


 体が伸びきったところですかさず私はゴムのように反動を利用して後ろに大きくバックステップジャンプした。しっかりと目を開けて前を見据えたままジャンプした。一瞬がまるでスローモーションのように感じた。


 スライムの腕は伸びてこなかった。


 そしてスライムはボチャン!という大きな音をして潰れて消えていった。


 私は声も出ずかなり呆けた状態で立ちすくんだ。


 そして目の前に黄色い枠と文字が表示され、さらにその奥には青く光る球体が浮かんでいるのが目に映った。私は手にした槍を落としてしまった。


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多田野 仁(ただの ひとし)

20歳男性

レベル:3⇒4

生命力:30⇒40

魔法力:30⇒40

持久力:30⇒40

攻撃力:3⇒4

防御力:3⇒4

素早さ:3⇒4

幸運度:3⇒4

魅力:3⇒4

魔法技能:3⇒4

異常耐性:3⇒4

【スキル】

ステップワークLv3⇒Lv4

キックLv2

槍使いLv3⇒Lv4

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 レベルアップステータスを見ても私はまだ呆けたままで、1分程で画面は消えたので、今度は前方にある青く光る球体へと吸い込まれるように歩いた。


 それが何なのかも分からないのに、危険性を全く考慮せず私は無意識に青く光る球体に両手を伸ばした。


 すると光の球体は私に近付いてきて、そのまま私の胸の中に吸い込まれていった。


 そこでまたしても黄色い枠と文字が表示された。


-------------------

多田野 仁(ただの ひとし)

20歳男性

レベル:4

生命力:40

魔法力:40

持久力:40

攻撃力:4

防御力:4

素早さ:4

幸運度:4

魅力:4

魔法技能:4

異常耐性:4

【スキル】

ステップワークLv4

キックLv2

槍使いLv4

【魔法】

小回復

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 最後に追加された文字の部分は紫色で強調表示されており【魔法】小回復が新たに加わっているのがすぐに分かった。


 私はジワジワと身体が熱くなってきた。何かの作用ではなく、誰もが想像を超えるほどの嬉しい感動に包まれた時に現れる普通の生理現象である。


 私は吠えた。両腕を高く天に突き上げて吠えた。何度も何度も吠えた。何故か鼻の奥がツーンとして涙と鼻水が出てきた。


 私はどうしてそうしたのか自分でも分からないが深々と部屋の真ん中で頭を下げて心を込めて「ありがとうございました」と口にした。


 正面の扉は既に開いており、私は愛用の自作の槍とリュックを手にして扉を通過し、完全に閉まりきって元の世界が見えたところで帰宅した。


 家に着いても全くもって呆けたもので、すぐに風呂を沸かして待ち時間に食パンをそのままかじり牛乳を飲み、風呂が沸くまでボーっとして、風呂が沸いたので湯船に浸かり30分程して湯船から出て体を洗い風呂から出て、氷を入れた水道水を飲んで、その後ゆっくり歯を磨き、髪が乾いたところでそのまま寝た。


 翌朝、ご飯を炊いて炊き立てご飯に生卵をかけて、お湯を注ぐだけのインスタント味噌汁を一緒にかきこんだ。腹一杯食べたところで、ようやく私は昨日の呆けた状態から回復した。


 そろそろ食べ物が尽きてきたので、今日は買い物に行かないといけないなと思った。


 といっても昨日はすぐに寝てしまい、今はまだ朝の5時台といったところなので、私はやはりいつも通り装備を整えて古墳へと向かって行った。


 いつもの青黒い石の回廊を歩き、5分程歩いたところで扉が現われ、いつも通り左側の扉を開けたが、さらに扉が軽くなっているので驚いた。


 片側の扉を90度程の角度まで開いたところで中を覗いてみると、そこには大きなスライムの姿はなく、最初の部屋にいたバスケットボール程の大きさのスライムが4匹いた。


 しかしそのスライム達の色は黄色だった。


 またスライムかという気持ちもあったが、色が違うということで恐らくこれまでよりも強いのだろうと警戒した。


 しばらくその場で観察を続けると、これまでと明らかに違って動きが一定ではなく、移動距離も以前よりも大きく、機敏さも上回っていた。


 私はどうしたものかと逡巡したが、多分ボスをクリア出来たのだからなんとかなるように設定されているのだろうと考え、意を決して部屋の中に入り込んだ。


 いつも通り扉は閉まり、私は向かって左の1匹と対峙することにした。


 今度の黄色いスライムの対象察知距離が分からないので、最初から警戒しながら槍を構え、いつでもステップ移動出来るようにしながらまずは5メートルの距離まで近づいたが、この距離ではまだ黄色いスライムは攻撃してこなかった。


 その場で観察を続けていると、黄色いスライムがブルブル震えたのでいつでもジャンプ出来る体勢を整えながらしっかり観察すると、若干黄色いスライムの表面がへこんだように見え、次の瞬間黄色いスライムは自分から見て向かって右方向へと移動した。距離は大体1メートル程でスピードも明らかに最初の青いスライムよりも速かった。黄色いスライムは大体10秒程度に1度の割合でランダムに移動した。


 自分は5メートルの距離ならば助走無しで一気にステップインして腕を伸ばして槍を突き刺せる自信があったので、まずは黄色いスライムに攻撃してみることにした。

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