8:槍使い
翌日、私はさらに大胆なことを試してみることにした。それはバランスボール大のスライムの攻撃を受けてみるということである。
何か盾になるようなものはないかと探し回った結果、台所にあった大きくて頑丈そうな中華鍋が両サイドに取っ手もついてて丁度いいかもしれないと思ったのでそれを持っていくことにした。
そして昨日半分だけ食べたスライムゼリーと、一応念のために濃い色のスライムゼリー1個をリュックに入れてスライム部屋へと移動した。ちなみに残りのスライムゼリーは冷蔵庫に入れてしまっている。
スライム部屋に到着後、まずは向かって左のスライムに対して1時間以上回避行動をとり続け、相当動きが鈍って攻撃までに3秒以上かかるのを見計らってから後ろに下がり、リュックからスライムゼリーを取り出してポケットに移して、両手に大きな中華鍋を持ってスライムの前に移動した。
目を離さずしっかりスライムを見て、スライムがゆっくり縮んで力を溜めているのを確認して、私は両足に力をいれてしっかりと踏ん張った。腕だけで中華鍋を持っていると力負けしそうなので、中華鍋を胸にピッタリ密着させて空間をなくし、両腕は鍋がずれないように抑えるだけにした。
来るっ!と思った瞬間に私は全身を硬直させて衝撃に備えた。同時に頭の中ではすぐにスライムゼリーを取り出して口にいれる動作もイメージした。
ドウンッ!という強い衝撃がして、私は後方に吹き飛んだ。まるで交通事故でクルマに跳ね飛ばされたかのようだった。フルフェイスヘルメットの透明シールド越しに天井がサーっと流れていった。
地面に叩きつけられたところで、ようやくハッと我に返ることが出来た。胸に強い圧迫感を感じたが、そうやって考えられることが出来るということは大きなケガはしていないのだろうと思った。
スライムは追撃してこないだろうという確信があったので仰向けからゆっくり寝返りをうってうつ伏せになり、両手をついて正面を見た。
なんと自分は5メートル以上も吹き飛ばされていることが分かった。フルフェイスヘルメットがなければ後頭部をしたたかに打ちつけていただろうし、中華鍋と胸のプロテクターがなければ肋骨が折れて肺に突き刺さっていたかもしれなかった。そして硬い鉄製の中華鍋がかなりへこんで平らになっていることが分かり大いに驚いた。
私は立ち上がり、ゆっくり深呼吸しながら自分の身体に異常がないか確認した。
胸の圧迫感と両腕に若干の痺れはあるものの、何度か呼吸を繰り返しているうちに徐々に回復した。
相当弱っている状態でもこの威力なのかと私は感心した。恐怖で戦慄するのではなく感心するという余裕があることに我ながら驚いた。
ともあれ私はそこでようやく槍を手にして、スタスタと自然に近づき、何気ない動作でサクッと1匹目のスライムを倒した。
特に身体の痛みも疲労もないのでそのまま2匹目のスライム討伐に挑んだ。そして今回も1時間以上余裕で回避し続けてスライムのスタミナを奪ってから、スライムの攻撃を受けることにした。
といってもさすがに真正面から攻撃を受けることはせず、スライムの体当たりと同時に斜め後ろに飛んで衝撃を逸らして和らげることを試してみようと思ったのだ。
1匹目の時に受けた攻撃の恐怖が身体に残っていたようで、最初は怖がってスライムの体当たりよりも速く飛んでしまって掠る程度になってしまったが、何度かやっているちにコツが掴めて衝撃をコントロール出来るようになった。
ただ残念なことにもっと試したいと思ったところで、スライムは完全にスタミナが切れてしまったようで動かなくなってしまい、仕方がないので槍でとどめを刺した。
それでも結果に満足した自分は足取りも軽く家路に向かうことにした。その途中またしても別のアイディアが閃き、明日のスライム討伐がより楽しみになった。
家に帰ると私は服を脱いで浴室に行き、胸のあたりなどに外傷がないか確認したところ、胸に大きな青アザが出来ていたので驚いた。それとあらためてここ最近でかなり筋肉質になったことに驚いた。
少しもったいない気がしたが、半分かじったままでおいておくのも衛生上気になったので、残り半分のスライムゼリーを食べることにした。
相変らず爽快で美味しく、飲み込んだ途端にスーッと全身に力がみなぎり、もう一度鏡を見てみたところ青アザがきれいさっぱりなくなっていたので、思わず私は「スゲーッ!」と口に出してしまった。
その後シャワーを浴びて、ウインナーソーセージを焼いて卵かけご飯とインスタント味噌汁の夕食をとって早めに寝ることにした。
明けて翌朝、これまでと同じ流れならば今日でこの部屋の攻略も完了ということになり、すごく楽しみな一方で少し残念な気持ちにもなった。ともあれ今日も元気にスライム部屋へと入った。
今日は昨日思いついたアイディアを最初から試してみることにした。そのアイディアとは短剣を取り付けていないゴムカバーがついた方の槍でスライムの中心核に打撃を加えるというものである。
素手によるパンチではまるでダメージを与えている感触はなかったが、果たしてゴムカバーのついたステンレス製物干し竿でスライムを倒せるのか大いに興味があったのだ。
そのため私は最初から全力でスライムに挑むことにした。
3メートルの距離からスライムの中心核めがけて鋭く強くステンレス製物干し竿を打ち放っては、ステップ移動して躱すことをひたすら繰り返した。
残念ながらまるでダメージを与えている感触がなく無駄なような気がしたが、それでも私はお構いなしに打突し続けた。
1時間を超え、2時間を超え、とうとうスライムがスタミナ切れを起こして動きが止まったところで、私も動きを止めてひたすらステンレス製物干し竿を打突した。いつしかゴムカバーも破けてボロボロになりステンレスパイプが剥き出しになり、私の腕もパンパンになって腕が上がらなくなってきた。
私は自分に喝を入れるため、声を出して打突を繰り返した。最初は「ヤァッ!ヤァッ!」と威勢よく声を出していたが、5分もしないうちに空の声になり「ハァッ!ハァッ!」と肩で息をするだけになった。
それでも私は打突し続け、さらに30分が経過した時、突然中心核が砕け散った瞬間を目にした。
スライムも私もグッタリして床に倒れた。
「やった!」という気持ちよりも疲れたという気持ちの方が強く、物干し竿を杖がわりにして足を引きずるようにしてなんとかもう1匹のスライムがいる方向とは逆の壁まで這うようにして辿り着いた。
そしてすぐにスライムゼリーを取り出して半分だけかじって食べると、飲み込んだ途端すぐに体力は回復した。
続けてあらかじめリュックに入れておいたパンとバナナを取り出して軽食を取り、水筒の氷水を飲んでしっかりと休憩をとってから残る2匹目のスライムに向かって行った。
1匹目の時と同じくおよそ2時間半の激闘の末、バランスボール程の大きさのスライムを倒すことに成功した。私はスライムの攻撃によるダメージは一切受けなかったが、あまりの疲労によりその場に座り込んでしまい、すぐに残り半分のスライムゼリーを食べて回復した。
気分爽快の回復と同時に私の目の前に黄色い文字が表示された。私は待ってましたと言わんばかりに嬉しい気持ちでいっぱいになって立ち上がった。
そしてそこには次の様に書かれていた。
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多田野 仁(ただの ひとし)
20歳男性
レベル:2⇒3
生命力:20⇒30
魔法力:20⇒30
持久力:20⇒30
攻撃力:2⇒3
防御力:2⇒3
素早さ:2⇒3
幸運度:2⇒3
魅力:2⇒3
魔法技能:2⇒3
異常耐性:2⇒3
【スキル】
ステップワークLv2⇒Lv3
キックLv2
槍使いLv3
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