5:初めてのレベルアップ
4日目の朝、いつものように扉を開けてスライムを倒すことにした。
今日は1匹目から素手で倒すことに決めており、タップリ時間をかけて楽しむことにした。そのためリュックの中には栄養補給のためのバナナを1本入れて汗拭きタオルも入れてきた。
他の3匹がいる場所に誘導しないように角度を考えて近づき、斜め後ろにジグザグにバックステップしながらスライムを引き寄せて、他の3匹のスライムと離れていくようにした。
それからひたすら回避してスライムのスタミナを奪う作戦をとった。もちろん効き目はないかもしれないが、一応パンチやキックでなるべく核を狙って打ち放った。
10分も続けていると、自分も息があがってくるが、スライムも大分ヘバってきたらしく、動きが緩慢になりやがて完全に停止した。
それを見計らってジャンプして核を思いっきり踏んづけてスライムを消滅させた。
いったんそこで休憩をとり、家から持ってきた水筒の氷水を飲んで一息ついたのだが単なる水道水なのにこれがまた実にうまく感じた。
10分程休憩した後、2匹目に挑むことにした。こちらも同じように危なげなくノーダメージで回避し続けて倒すことが出来た。
そこで結構疲労した感じがしたので、時間はまだまだタップリあるから、焦らずじっくり楽しもうと考えて、ゆっくり休憩を取ることにした。
リュックの中に入れていたバナナを食べて水筒の氷水を飲んで、残り2匹がいる場所とは反対側の壁の下に座ってしばらくの間休憩した。
その後やはり同じ戦法で1匹倒し、今度は15分程休憩してから最後の1匹に挑み、やはりノーダメージで10分後には核を踏みつけて倒した。
そこで驚くべきことが起きた。
目の前に非常に鮮明な文字が表示されたのだ。
そして黄色い枠で囲まれた中には次のような文字が記載されていた。
-------------------
多田野 仁(ただの ひとし)
20歳男性
レベル:1⇒2
生命力:10⇒20
魔法力:10⇒20
持久力:10⇒20
攻撃力:1⇒2
防御力:1⇒2
素早さ:1⇒2
幸運度:1⇒2
魅力:1⇒2
魔法技能:1⇒2
異常耐性:1⇒2
【スキル】
ステップワークLv1⇒Lv2
キックLv1⇒Lv2
-------------------
さらに続けて今度は目の前の扉が開いていくのが見えた。
また、足元が光っているので見てみるといつもの青いスライムゼリーとは別に大きなナイフのようなものが落ちているのが見えた。
私はそれら3っつの事象についてすぐに理解し、大声を上げて喜んだ。誰もいないことをいいことに何度も大声を上げて拳を突き上げて喜んだ。こんなに心から全身で喜んだことなど生まれて初めてだと言わんばかりに喜んだ。
そして足元に落ちていた大きなナイフ、もはや短剣と言った方が良い武器を手にして、鞘から剣を引き抜いてその刃をまざまざと見た。
包丁以外で生まれて初めて殺傷目的のためだけに作られた剣というものを見て、恐ろしいという感じよりも美しく頼もしいという高揚感に包まれ、そんな美しい刀身を見ると自分の顔が映っていた。
鞘にはベルトを通せるような二つの通し輪がついていたので早速ベルトに通して装着してみたが、厚手のアウターが邪魔で咄嗟に引き抜くのは難しそうだった。
私は今度ネットでアウターの上に装着するハーネスを探して買おうと思った。よく映画やアニメなどで特殊部隊が装着しているかっこいいタクティカルハーネスというやつだ。高専時代の同級生にサバイバルゲームが好きな人がいて、スマホの写真でそういうのを身に着けていたのを思い出したのだ。
私はとてもウキウキした気分で目の前の開いた扉に向かって行き、そのまま通過した。
通過し終えると、扉はズズズと音を立てて閉じていった。完全に閉じた瞬間私はまたしても「あっ!」と声をあげて驚いた。
扉が完全に閉じた後、その先には現実世界が映し出されたのだ。
私はすぐにそのまま飛び出して現実世界へと戻ってみた。
そしてまたすぐに振り返ってみると、そこは見慣れた古墳の洞穴の姿があった。
私はもう一度洞穴の中に入ってみたところ、ちゃんとまた異世界の通路へと戻ることが出来た。
「なるほど、最初の部屋を攻略したから、次からはその先から始められるのか!これは便利だ!」
私は自分にとって実に都合の良い解釈をして、そのまま先へと進むことにした。
5分程進んだところで想定していた通り扉が目の前に出現した。
もちろん私は躊躇することなく全力で、今回は片方の扉を押した。
向かって左側の扉を90度程開いたところで私は部屋の中には入らずに様子を伺った。
部屋の中にはまたしても青く透明なスライムがいたのだが、その大きさが先ほどまでのバスケットボール程の大きさから今度はバランスボール程の大きさにまで大きくなっていた。
そして良く目を凝らして見てみると、今度は2匹のスライムがいることが分かった。
私はそこでいったん家に戻ることにした。
家に着くともう少しでお昼になろうという時刻だったので、私はインスタントラーメンを作ることにした。スーパーで買っておいた野菜炒め用の袋を開けて、豚バラ肉を取り出して一緒に炒めてラーメンの具材とした。さらにゆで卵を2個も作ることにした。
お爺さんは数年前までは畑を耕していたが、今ではすっかり耕作放棄地と化しており、自分でも少しもったいない気がしたが、自分は全く畑仕事のことについては分からず、そもそも畑を耕して農作物を育てようという気もなかったので、ほぼそのままの状態にしており、すっかり雑草に覆われた状態になっていた。
そのため近くに良い畑があるのにスーパーで袋につめられた野菜炒めセットを買うという有様だった。
それでも自分にとってはとても美味しく感じる充実した昼食に大変満足していた。
食後にスティックカフェオレを飲みながら、ネットで良さそうなハーネスを物色していた。サバイバルゲーム用のものなら5千円もしない安価なものが複数出てきた。
早速気に入ったものをカートに入れようとしたところで、指を止めてふと考えた。
先ほど部屋の外からスライムを見た感じでは、自分が手に入れた短剣では普通に刺しただけだとスライムの中心核に届かないのではないかと思ったのだ。
そしてそもそも先ほど手に入れた短剣が果たしてどれほどの切れ味があるのか分からないので、早速何かで試し切りをしてみたくなった。
私は思い立ってすぐに行動に出ることにした。縁側から外に出て、目についた細い木の枝を見ると、おもむろに短剣を振りかざしてみた。
するとほぼなんの手応えもなく細い木のさらに細い枝はスパッと切り落とされた。
私は続けてその細い枝の少しだけ太くなった枝の付け根に対して短剣を振り下ろした、するとやはりほとんど手応えすらなく枝の根元を切り落とすことが出来た。近寄ってみるとすごく綺麗な切断面で、思わず「おぉー!」と声が出た。
木には気の毒だが、私はさらに少しづつ太い枝を切り落として感触を確かめていったが、直径5センチ程の枝ですら何の抵抗もなく切断出来たところで、大胆にも細い木そのものに対して斜めに振り下ろしてみようと思った。
短剣は片手用なので両手で持つには柄が短く、私は右手の手首に左手を添えるかたちで右上段に短剣を構えた。私には剣道の心得などまったくないので正しいフォームなどは分からなかったが、一応それっぽく深呼吸を繰り返して、精神を集中させた。
目を閉じて何度も頭の中で振り下ろす動作をイメージし、実際にゆっくりと素振りを何度も繰り返した。
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