第5話 その後

 ジェノが口を開いた。

 

 「本能寺で明智光秀があなたを討ったとき、あなたの嫡男で織田家当主の信忠さん

も京都で同時に光秀の軍勢に襲われたのです。信忠さんは宿泊していた妙覚寺から二条御新造に移って抗戦したのですが、多勢に無勢で・・・建物に火を放って自害しました」


 信長が絶句した。


 「信忠が・・・」


 ジェノが続けた。


 「また、本能寺の変が起こったとき、あなたの家臣の羽柴秀吉は、先ほどのあなたのお話にあった通り・・・毛利輝元もうりてるもとの部将、清水宗治しみずむねはる備中びっちゅう高松城を水攻めにしていました。あなたの死を知った秀吉は、それを秘して毛利と講和を結ぼうとしたのですが、光秀の密使が毛利方にいち早く到着しており、毛利は講和には応じませんでした。このため、秀吉は、備中びっちゅうに攻め入った光秀と毛利の挟み撃ちにあって、高松城の近くで討ち死にしてしまいます」


 信長が唸った。

 

 「あのサルが光秀に討たれたのか・・・」


 「そうです。その後、機内に戻った光秀は、高山右近、細川幽斎、筒井順慶らを味方につけ、光秀軍は大勢力に膨れ上がったのです」


 「そうじゃ、三河は? 三河はどうなった?」


 「三河? ああ、家康ですね。家康は本能寺の変が起こったとき、わずかの供回りと一緒に堺に滞在していました。家康は早急に本拠地の岡崎城へ帰るため、伊賀経由での帰国を試みますが、その途中で、光秀の手の者によって討たれています」


 信長が天井を仰いだ。


 「三河も討たれたのか・・・」


 「はい、その後・・・中国の毛利輝元、四国の長宗我部元親と同盟を結んだ光秀は、あなたの配下だった柴田勝家を賤ヶ岳の戦いで破ります。光秀はさらに、越後の上杉景勝とも同盟を結び、上杉と一緒に小田原に攻め入ります。これが有名な『光秀の小田原攻め』です。名城・小田原城に光秀勢は苦戦しますが、最後には北条氏直、北条氏政を討ち果たします。その後、関東に進出してきた伊達政宗を破り、結局、明智光秀が天下を統一したのです。光秀は近江の坂本に明智幕府を開きました。明智幕府は将軍職にある明智と、有力大名であった毛利、長宗我部、上杉などとの共同統治といった性格の幕府でしたが・・・鎖国政策が功を奏し・・・明智幕府はその後、約400年間続くことになります」


 信長の顔が真っ赤になった。


 「すると、光秀が天下を取ったのか! あの裏切り者の光秀が! おのれ、光秀め!」

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