第3話



 「あたしは、荻島君がいいな」

 「いいよね、荻島君。でもほら、荻島君の傍にはいるじゃん、『トーキチ』が」

 「なに?」


 あたしが、声をけると、クラスメートの女子2名、浅田さんと木島さんが、ドキっとした様子であたしの方に振りかえる。


 「聞こえてたの?」

 「聞こえた、何話してんの、告白大会の時間?」

 「あーうん」

 「まあ、いいけど。ちなみに、ヒデは、あたしタイプをオンナノコとして認識しないから、近くにいても、駄目だよ?」


 あたし藤吉透子がそういうと、他の女子も集まってくる。

 ちなみにみんなパジャマで、それぞれ、備品のシーツや枕カバーをセットして、部屋の中央に集まる、

 6年最後の移動教室、二泊目の夜のこと。

 そろそろ始まるだろうとは思った、告白大会。

 あたしは、クラスの女子で浮いている方だから、結構気を使う。

 浮いている理由はわかってる。

 オンナノコなのに、リトルリーグでエースピッチャー。

 その為、オトコノコ達からの「遊ぼうぜ」コールがひきもきらない。

 その様子を見て、「ちょっといいな」と思ってるオトコノコ達と親しくしているから、結構嫉妬されるんだよね。

 別に恋愛で好きだから遊びに誘うわけじゃないんだよ。

 オンナノコ達は違うんだよね。

 恋愛感覚が発達しているってゆーか、敏感てゆーか。


 「てかさー、あたし、モテないよ。奴等はもっとオーソドックスなタイプにときめくから」

 「透子ちゃんは、男の子達から、そういう話を聞くの?」

 「うーん……まあ距離的に聞こえることもあるけれど、あんまり、深く聞いちゃうとさー、めんどくさいじゃん。そういう風に質問されてどう答えてやったらいいかわかんないし」

 「じゃあ、ズバリ聞くわ、荻島君とはどうなの?」


 きたきたきた。

 今回は絶対クルと思っていたよ。

 この質問。

 去年はまだ何とか誤魔化せたけど、今年はそうもいかないよなあ。

 どうするかな……なんて云えばいいかな……。

 浅田さんや木島さんみたに、ヒデのことをはっきり恋愛感覚で好きって断言できないんだよね。

 オムツの頃からずっと一緒で兄弟みたいなもん……だと思ってたんだけど、最近……それとはまた違うのかとも思ったり。

 オンナノコはココだけは白黒ハッキリつけたがるからなあ。そういうところは。


 「どうなのって……どういう意味のどうなの?」

 「実は付き合ってるの?」

 「それは――――ない」


 と、思う。

 てかないな、野球しかやってないもんね。

 宿題だって、他のオンナノコとやってるよ、あたし。


 「じゃ、好き?」

 「嫌いじゃバッテリーは組めないよ。でも、なんてゆーかー、みんなが期待する好きとかとは違うと思うし……ちなみにそういう話をヒデとはしたことないから、ヒデの好みはわかんないんだよね」

 「そうなんだ」

 「ごめんね、協力できなくて」

 「聞けないの? 荻島君に」

 「えー、聞くの?」

 「聞いてよ!」

 「お願い!!」


 なんと木島さん浅田さんのほかに、数名が両手を組んでお祈りポーズをして、あたしに迫る。

 ヒデもてるんだ……知らなかったよ。

 どうしよう。


 「明日の自由時間に、聞いてきて! もし、そんな特定の子がいないなら、あたし思いきって告白したいの」

 「告るの!?」

 「いい思い出にしたいの~」


 自信あるなー。

 告るんだー……あ、だめだ、この感覚。男の子思考だ。

 あたし、普通の女の子感覚じゃないのかも。

 クラスの○○君が見ててカッコイイって思う「協力してー」「うん、頑張ってー」なノリのテンションが低い。

 だってヤツ等の態度わかる「ナニしていいかわかんないのに、どうするんだよ」とか云うぞ、絶対。

 だけど、ここで、OKしておかないと、また女の子たちが、「藤吉さんて冷たい、自分がモテればいいからってさー」とか陰口がついて回るのは、予想できる。

 オンナノコの社交、難しい……。


 「聞くだけ聞きますが……」

 「ホント?お願いね!」






 さて、どうするか、昼食前に女子に報告しないといけないからなあ。

 自由見学の時にしかチャンスはない。

 バス移動だと、席が離れているし……。

 翌日の朝、最終日。

 あたしは朝食の魚の骨があやうく咽喉に詰まりそうになったり、それぐらい、ヒデのヤツに対して緊張して話かけようとしている自分が情けなかったりで、溜息をついた。


 「よっ! トーキチ」

 「ヒデ」

 「朝飯美味かったなー」

 

 女子。

 こいつはおはようの挨拶よりも、朝飯の感想を口にする男ですが、それでもOKなのでしょうか?


 「あのさ」

 「ナニ?」

 「アンタ、今好きな子いる?」

 「朝から何を? お前、熱でたか?」


 あたしはヒデの首を左腕で抱えこんで、小声で言う。


 「あたしだって聞きたくないけど、女子の一部のたっての頼みなんだ」

 「はあぁ?」

 「いない? いないということにして」

 「何だお前」

 「とにかく、頼んだから」


 そういうと、あたしはキョトンと立っているヒデにもう1度、いいなと念を押した。

 とりあえず、ヒデが誰のことも興味ないフリーの状態は作ったぞ、後は知らないぞ。

 あたしは自分の部屋へ早歩きで戻っていく。


 今はまだ小学生だから、ヒデの返事はわかる。

 女子に告られたとしても「野球のことしか考えられないからごめんね」ぐらいは云うだろう。

 だけどあと数年後は?

 ヒデの兄さん達だって彼女じゃないのに、女の影がちらついてる(それも不特定多数)ヒデもそうなるのかな?

 女子はあたし伝いにヒデに告白するんじゃなくて、自分で言い出す子も出て来るかもしれない。

 その時、あたしはどうするんだろう。

 今みたいに、ただの幼馴染で済ますことができるんだろうか?

 それとも――――、ヒデにそれ以上の感情を持っていたりするんだろうか?


 白いボールを投げ合うだけじゃ、だめなんだろうか……。


 そんなことを考えて、深く溜息をついた。


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