第十二話 話がおかしな方向に……

それから三人を代表して、エメラが説明を始めた。


ゴゴは三十人ほどが住む小さな町だが、周囲にはまだ手付かずの森があり、ここを切り開けば大都市に負けないくらい発展できる。


水源は町の側に湖があり、ルヴィが町の男たちから聞いた話では森の奥には洞窟もあって、鉱物なども採取できるかもしれない。


意外とこの辺境の町は資源の可能性が無限大だったと、三人で話しているうちに気が付いたことを、緑髪の末っ子は言う。


「でも、いきなり大きなことってできないよね」


だがそれよりもまずは、町で何かしらの産業を始める必要がある。


第一に人員の確保や安定した流通など、現状でゴゴの町に足りないことはいくらでもあるのだ。


そこで手始めに町の人たちと協力して畑をたがやして、町の食料を外だけに依存しないようにしようと、エメラはとても興奮した様子で話していた。


それは今のゴゴの町の食べる物が、ほとんどすべて他の町に依存しているからだと、エメラは言葉を続けた。


「ちょっと待って、どうしてそんなに話が大きくなってるの!? 考えていたのは私たちが生活していくためにする仕事の話だったはずでしょう!?」


ダイヤは家族会議がおかしな方向に向かっていたことに慌てながら、ひとまず落ち着くように言った。


彼女が驚くのも無理もない。


元々はオルコット姉妹が、この先どうやって収入を得るかの話だったのだ。


それが町の開拓だの発展だのと、何か一大事業に話が変わっているのだから、ダイヤの反応はもっともだ。


エメラがそんな白銀髪の姉を見て首をかしげていると、サファイアは椅子から立ち上がって彼女に向かって言う。


「そんな大げさなものじゃないですよ。そもそもゴゴの町は人口も少ないんですから、ダイヤ姉さんが想像しているような規模までいきませんって」


「いやいやサファイア! 規模とかそういう問題じゃなくてね! 私たちが勝手に町のことを――」


「とはいってもやるからには完璧にしますよ。すでにワタシの頭の中ではいくつものプランがありますから。そしていずれは……この町を国にしてみせます!」


姉の言葉をさえぎって話を続けるサファイア。


そこにルヴィも参加してくる。


「さすがにそれはサファイアが行き過ぎてるけどさ。なんか森の奥にある洞窟に、願いを叶える魔剣があるとかそんなうわさもあるんだって。まあ、あくまでうわさだけど、その話が広まれば人もこの町に集まって来そうじゃね? そうなればこの町も、いい感じに栄えそうじゃん」


「そうなると森に出る魔獣の対策も必要だよねって、さっきみんなで話してたんだけど。ダイヤお姉ちゃんはどうしたらいいと思う?」


ルヴィに続き、エメラも問いかけてくる。


ダイヤは妹たちの熱量に圧されながらも、なんだかんだいきいきしている彼女たちを見て嬉しくなった。


しかし、町の人の意見も聞かずに、勝手に話を進めてはいけない。


まずは妹たちを落ち着かせねばと、ダイヤはパンッと両手をうち合わせて鳴らす。


「はい、話は後で詳しく聞いて、私のほうからゲオルグさんに相談するから。とりあえず晩ご飯の準備をしましょう」


姉の一声で妹たちは早速、料理を作り始めた。


サファイアとエメラがパイ生地を用意し、ダイヤとルヴィは包丁で野菜や肉を切り出す。


玉ねぎはみじん切りにし、油を敷いたフライパンでよく炒めて色づいてきたら肉を入れて一緒に炒め、全体に火が通ったら塩コショウなどスープで使っている調味料を加える。


「おお、美味そうな匂いがしてきたな」


「このくらいでいいかな。サファイア、エメラ。生地の準備はいい?」


ルヴィがフライパンから溢れる香りに笑みを浮かべると、ダイヤは青髪と緑髪の妹二人に声をかけた。


サファイアとエメラは姉たちが野菜や肉を切っている間に人数分のパイ生地の準備を終えており、それを天板の上に並べている。


それを確認したダイヤは、二人が用意してくれたパイ生地の周囲に卵の黄身を塗り始め、さらに用意してあったパイ生地に切り込みを入れてかぶせた。


その後、フォークでパイ生地の周囲を押し込み、上にも黄身を塗って予備加熱をしていた石窯いしがまにパイを入れて加熱する。


二十分ほどで焦げ目がつき始め、それから焼き具合を確認しながらじっくりと待ってパイが完成した。


今夜の料理はミートパイで、付け合わせはもらってきたスープの残りだ。


「くぅぅぅッ! やっぱ肉サイコー!」


「そこまで味が濃くないのに満足感がすごいですね!」


「アップルパイもおいしかったけど、ミートパイも大好き!」


香辛料を使わず、さらに味付けはほぼ塩コショウで安い鶏肉のミートパイだが、妹たちの手は止まらない。


出来立て熱々のパイに口の中を火傷しそうになりつつも、あまりのおいしさに食べ続けていた。


一方でジュエリーは、テーブルの上で彼女たちと食卓を共にしていたが、ミートパイが熱すぎて食べるのに苦労しているようだった。


それに気が付いたダイヤは「ごめんね」と謝りながら、パイを小さく切り分けて冷ました。


するとジュエリーは彼女のことを見上げて、「ミーミー」とお礼を言っているかのように鳴き返す。


「そういえばゲオルグのおっさんとは会えたのかよ?」


「朝から出かけて夕方まで話していたんだから、町のことをいろいろと聞けたのでしょう?」


姉妹そろって食事をしている中、ルヴィとサファイアが、ふと思い出したようにダイヤに訊ねた。

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