第十話 生計を立てる

――次の日。


ダイヤは朝から石窯いしがままきをくべて、パイ作りに取りかかっていた。


ルヴィ、サファイア、エメラ三人は、その様子を不安そうな顔で見つめている。


「かまどは準備オッケー。今日はアップルパイを作るよ!」


意気揚々と料理を始めたダイヤは、まずリンゴの皮をむいて芯を取り始めた。


それから一口サイズに切り分け、別に用意した鍋に煮汁を入れ火にかける。


煮立ったら中火にしてリンゴを入れ、落とし蓋をしてから十分ほど煮たら具だけを取り出した。


あとでリンゴをパイ生地に乗せるために冷ましているのだ。


「次は生地だよ。ここからが腕の見せどころ!」


予め用意していたパイ生地を麺棒で皿の大きさになるまで伸ばす。


次に皿の上に伸ばした生地を乗せ、形に合わせて周囲を切り取っていく。


生地の底にまんべんなく穴を開けるのも忘れずに。


そして冷ましたリンゴを生地の上に均等に並べ、別のパイ生地を帯状に切り、リンゴの上に格子状に並べる。


このときに帯状にしたパイ生地を編み込むのがなかなか難しいのだが、ダイヤは慣れた手つきで仕上げていく。


それからパイのふちにぐるっとの巾に切った帯を貼り付けていき、天板に乗せて石窯に入れる


あとは焼け具合を見て、パイがキツネ色になれば出来上がり。


熱々のアップルパイの完成である。


「思ったよりも美味そうだな」


「ええ、見た目だけはかなりのクオリティですね」


ルヴィとサファイアは、まさかここまでのものを姉が作れると思っていなかったのか、完成したアップルパイを見て驚いていた。


エメラのほうはというと、アップルパイを見つめながら今にもよだれが垂れそうな緩んだ表情になっている。


そんな妹たちを見たダイヤはえっへんと胸を張り、彼女の頭に乗っていた黒猫のジュエリーが「ダイヤなら当然でしょ」とでも言いたそうに鳴いていた。


もちろん人数分を焼いているので、今日の朝食はアップルパイだ。


テーブルに並べられた熱々のパイからは湯気が昇り、強いリンゴの香りが漂っている。


「さあ、食べてみて!」


ダイヤはそう言うが、ルヴィとサファイアはまだ姉の料理に疑心暗鬼だった。


二人は互いに顔を見合わせながら、目の前にあるアップルパイを見てゴクッと唾を飲み込む。


「では、ルヴィからどうぞ」


「いやいや、サファイア。ここはあんたから」


二人がどうぞどうぞと譲り合っていると、エメラが「いただきます」といって切り分けたアップルパイを頬張った。


エメラは緑色の髪を振り回しながらホクホク顔になっている。


それを見たルヴィとサファイアも、実においしそうに食べる妹を見て、ついにパイを口の中へと頬り込む。


口の中でリンゴの粒状感のある食感と甘みが口いっぱいに広がり、心地よい後味を残してじわじわと消えていくような甘さが胃の中へと消えていった。


「こいつは美味い!」


「本当にビックリですよ! ダイヤ姉さんにこんな特技があったなんて!」


味が最高だとわかると、もう妹たちは止まらない。


少し大きめに作ったアップルパイだったが、彼女たちはあっという間に平らげてしまった。


ダイヤがそんな妹たちを見ながら嬉しそうにパイを食べていると、テーブルの上へと移動していたジュエリーが「だから言ったじゃない」とで言いたげに呆れ、小さく切り分けられたパイを口にしていた。


本当なら猫にとって食べさせていいものではないが、ジュエリーは普通の猫とは違って何を食べても体調を崩さないらしい。


満足そうにパイを食べ、ゲップと息を吐いていた。


「はい、みんな注目! 今から家族会議を始めるよ!」


それから朝食の後片付けを終えると、ダイヤが妹たちに向かって、いつになく真剣な表情で話を始めた。


白銀髪の姉が言い出したこととは、現在のオルコット家の金銭についてだった。


ダイヤは詐欺師の商人に騙されて、今住んでいる家を購入した(ゲオルグの話では所有者のいない空き家だった)。


そのせいで、彼女が四年間で貯めた金銭がほとんどなくなってしまっているようだ。


そこでこれからどうやって生活をしていくかを考えようと、ダイヤは妹たちに意見を求める。


「なんか町の仕事でも適当にやればいいじゃね? ここの連中はみんな狩りで食ってるみたいだしよ」


「でも先のことを考えたら、いつまでも続く仕事じゃないでしょう。それに冬眠の時期になると厳しそうですよ」


「たしかにそうだな。それにオレたちまで狩りを始めたら、森の獣や魔獣も狩りつくしちまうかもしれねぇし」


ルヴィとサファイアが話を始めると、エメラは自分に何かできることはないかと考えていた。


ダイヤは二人の話を聞きながらエメラに声をかけているうちに、とりあえずもっとゴゴの町のことを知ったほうがいいと思いいたる。


実際に彼女たちは、この町に住む人間がどうやって生計を立てているのかを詳しく知らないのだ。


わかっているのは、ゲオルグの指揮のもとで狩猟しゅりょうをしていることぐらいだ。


「ありがとう、みんな。じゃあ、ちょっとゲオルグさんに相談してみるね。私たちはもっと自分たちの住んでいる町について知らないといけないから」


ダイヤは椅子から立ち上がると、妹たちにそう言い、凄まじい勢いで外へと飛び出していった。


残されたルヴィ、サファイア、エメラは、そんな姉の行動力に呆れながらも、三人で何かできる仕事について話を続けることにした。

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