第八話 あなたと同じ

それからダイヤは、ゲオルグや彼の仲間たちが動揺しているのも気にせずに話を続けた。


ランペット王国の公爵だった父とその夫人の母がある日に事故で亡くなったことから始まり――。


両親と親しくしていた貴族たちに財産を奪われて、姉妹たちと離れ離れにされたことなどを、包み隠さずに伝えた。


さすがにルヴィ、サファイア、エメラのその後は言わなかったが、ダイヤ自身のことは話した。


金銭を稼ぐためにランペット王国軍に入り、それから四年間、死に物狂いで働いて妹たちを迎えにいったこと――。


そして皆でゴゴの町へとやってきて、今はこうしてゲオルグたちと出会ったと。


いきなり家の内情を話したせいで、エメラは言葉を失い、ルヴィとサファイアは「そんなことまで話さなくてもいい」とでも言いたそうに歯を食いしばっていた。


ダイヤとしてはゲオルグたちの誤解を解きたかったのだろうが。


三人の態度から、妹たちがあまり他人に自分たちのことを知られたくなかったのがわかる。


だがそれでも彼女たちが止めなかったのは、ゲオルグたちに過去の話をするのが、必要なことだと思ったからだった。


誰よりも家族のことを考えているダイヤがそう決めたのだ。


不満こそあれ、話さなければならない――そう思って妹たちは恥を飲み込む。


家が没落したことを話すなど、貴族令嬢として育った彼女たちからすれば耐えられないほどの苦痛ではあったが、我慢できたのはそれだけ長女ダイヤを信頼しているということに他ならない。


「最初に話せればよかったんですけどぉ。皆さん、ちょっと話を聞いてくれる感じじゃなかったので」


「……店を片付けてるときに言ってくれたらよかったんじゃないか」


「へ……? あぁ、そうですよね! でもそのときは、まさかこんなことになるだなんて思わなかったんですよ!」


ゲオルグは「アハハ」と言葉を返してきたダイヤに体を向けると、静かに訊ねた。


先ほどの闘いで武器を破壊することに作戦を切り替えたと言っていたが、それだけの実力があるのに、どうして自分を倒そうとしなかったのか。


片膝をつかせるくらい簡単にできたのではないかと、ゲオルグは皮肉でも嫌味でもなく、ただ単純に思った疑問をぶつけた。


たしかに木の棒で鉄の剣を折れるほどの実力ならば、たとえゲオルグのような強者でもそれぐらいはできそうだ。


乾いた笑みを浮かべていたダイヤは、ゲオルグに向かって改めて笑みを見せると、穏やかな声で答える。


「だってゲオルグさんがこの町を守ろうとしているんだなって考えたら、この人と闘いたくなって思ったんです。私にも守りたいものがあるから」


「そうか……」


「それに私もゲオルグさんと同じで暴力が嫌いなんですよ。軍にいたときも戦ってる国の兵を攻撃できなかったから上官に叱られて、医療班に飛ばされちゃいました。ラッキーとか思ったけど結局は最前線で、まあいろいろ大変でしたね。うんうん」


ゲオルグは、両腕を組んでコクコクとうなづいているダイヤに背を向けると、その場から去っていった。


ガラの悪い男たちは戸惑いながらも彼に続き、その後を慌てて追いかける。


ダイヤがゲオルグたちの背中を見ていると、ルヴィ、サファイア、エメラ三人が近づいてきた。


「ダイヤ姉は甘いよな。オレだったらあのオッサンの頭をかち割ってやるのに」


「なんか納得できない終わり方ですね。せめてあの人たちに謝罪くらいはさせてやりたいとこですが、ダイヤ姉さんがそれでいいならワタシからは何も言いません……が、やはり気に入らない。一発ぶん殴ってやりたいです」


「ダイヤお姉ちゃん! どこもケガしてないよね!?」


ルヴィとサファイアはスッキリしないと愚痴ぐちをこぼし、エメラはというとダイヤの心配であたふたとしている。


ダイヤはそんな妹たちをガバッと両手を広げて抱き寄せた。


いきなり抱擁ほうようされた三人は驚いたのも束の間、かなり強い力で抱きしめられたのか、かなり苦しそうにうめいている。


長女の愛情表現なのだろうが、ダイヤの怪力で抑え込まれたら下手すれば骨が折れてしまう。


そんな妹たちが苦しんでいる中、エメラの頭に乗っていた黒猫のジュエリーが突然ダイヤの頭へと飛び乗った。


そしてやはりというべきか、彼女の白銀髪の上で丸まった。


「勘違いしてすまなかったな。何か困ったことがあったらいつでも言ってくれ。あんたらは今日からこの町ゴゴの人間だからな」


背中を向けながらよく通る声でそう言ったゲオルグ。


ダイヤは「不器用な人だな」と、思わずクスッと笑ってしまう。


そんなことを考えながらゲオルグの背中を見つめていたダイヤの耳に、まるで喉から振り絞るような妹たちの声が聞こえてくる。


「ダイヤ姉……マジでこれ以上はヤバ……い……」


「息が……息がぁ……」


「うわぁ!? ごめーん! ちょっと力入れすぎちゃった!」


ダイヤは慌てて彼女たちを解放したが、エメラだけは意識を失ったままグッタリしていた。


声をかけたり体を揺すったりしてみるが、まるで反応がない。


「どうすんだよダイヤ姉!? エメラがあわふいてんじゃねえか!?」


「エメラが! ワタシのエメラがぁぁぁッ!」


「わーわー! エメラごめんなさい! お姉ちゃんが悪かったから目を覚ましてぇぇぇ!」


これからオルコット家の四姉妹の辺境の町ゴゴでの生活が始まるのだが。


エメラが目を覚ますまでの間、ダイヤたちは酒場の前でバタバタし続けるのだった。

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