第六話 条件
それからゲオルグは淡々と話しを続けた。
オルコットといえば、ランペット王国に仕える
以前に王都にいたことがあるから、それは間違いない。
自分たちが住むゴゴの町は、この大陸にある二つの大国――ランペット王国とコルネト王国の両方にいられなくなった者たちが逃げ込む最後の
そんな場所に上流階級の人間が住み始めたら、町の者たちは落ちつかなくなる。
その理由は、ゴゴの住民の多くが
ひょっとしたら国の役人から指示を受けて来たのではないかと、貴族が町に住むとなったら不安でしょうがなくなってしまう。
さらにいえば、赤い髪のほう――ルヴィは義賊団エアプランツのメンバーで、青い髪のほう――サファイアはルメス商会の者なのだろう。
一体どういう理由で貴族の娘が、そんな大陸で有名な組織の人間なのかはわからない。
それも厄介事をこの町に運んでくる要因になりそうだ。
――と、ゲオルグは言い終えると、二杯目のエールを店員に注文した。
「ちょっと待ってください! 私たちは役人に指示なんてされて――」
「いいから早く町を出ろ。俺は暴力は好きじゃないが、でもどうしても出て行かないんなら、力づくでも追い出すぞ」
ダイヤの言葉を
その態度は、有無を言わせないといった強固なものだった。
だが、それでもダイヤは食らいつく。
「では、どうするれば町にいさせてくれるんですか?」
「そんなにこの町にいたいんなら、そうだな……。俺に片膝をつかせたら考えてやってもいい。できるものならな」
ゲオルグは出された二杯目のエールに口をつけ、吐き捨てるようにそう言った。
彼の言葉を聞き、ルヴィとサファイアが前へと出てくる。
「おもしれじゃねぇか。だったら今すぐやってやんよ」
「いえ、ルヴィ。ここはワタシがやります」
「おい、サファイア。こいつはエアプランツの名を出したんだ。だったらオレが行くのが筋ってもんだろ。いいからあんたは引っ込んでろよ」
「その理屈でいうならルメス商会の名も出ましたよ。ワタシにも権利はあるはずです」
ゲオルグを見据えながら、どちらが彼を
ルヴィとサファイアは、ムッと表情をしかめて姉の肩に手を伸ばした。
ダイヤの出る幕ではないと、ここは自分に任せてほしいと。
するとダイヤは振り返り、ニッコリと微笑んだ。
「この町に住もうと言ったのは私です。だからここは私がいきます。荒っぽいことは好きじゃないけど。でも、それがお姉ちゃんの仕事だから」
彼女の笑顔を見た妹二人は、もうそれ以上何も言えなくなった。
昔からこうなのだ。
ダイヤは温和で誰にでも優しい人物なのだが、一度決めたことは必ずやる頑固な性格をしている。
自分が“お姉ちゃんだから”と口にしたときは特にそうだ。
ルヴィとサファイアは、二人同時に「はぁ」とため息をつくと、こうなったら止められないと言いながら下がった。
そして、ダイヤはカウンターにいるゲオルグの前に立ち、彼に声をかける。
「えーと、ゲオルグさんでいいんですかね? できればすぐにでも認めてもらいたいので、今とかお時間ありますか?」
「本気で俺に片膝をつかすつもりか? 冗談で言ったつもりだったんだがな。……やるつもりなら今すぐやってやる」
ゲオルグは二杯目のエールを飲み干すと、ジョッキをカウンターのテーブルに置いて店を出ていった。
ガラの悪い男たちが一斉に彼の後に続いていく。
ダイヤは彼らの背中を眺めると、カウンターにいる店員の男に声をかけた。
「あのー、すみません。ゲオルグさんとの闘いに、ルールとかってあるんですかね?」
訊ねられた店員は、呆れながら答えた。
そんなものはない。
ただゲオルグがああ言ったときは、絶対に一対一で闘うとだけ答えた。
話を聞いたダイヤはコクコクと頷くと、店の端にあった薪の束に手を伸ばし、一つもらっていいかと訊ねた。
その薪は細く割って扱いやすい長さに切断されていない、少し長く太いものだ。
店員は、まさかそんなものを武器にするつもりかとその顔を引きつらせていたが、勝手にしなと返事をした。
「ルヴィ、ちょっとナイフを貸してもらえる」
「別にいいけど。まさかダイヤ姉、薪で闘うつもりかよ?」
ルヴィの問いに、ダイヤは薪をナイフで削りながら答えた。
軍にいたときの練習試合では木剣が基本だったので、これが一番手に馴染む。
そもそも除隊したときに持っていた私物のほとんどを金銭に換えたので、武器を持っていない。
だからこれでやるしかないと、ダイヤは借りたナイフを使って、慣れた手つきで薪を持ちやすい形にしていった。
そして、完成した
当然ルヴィとサファイアも彼女に続き、少し遅れてエメラも姉の後を追った。
ジュエリーは最後尾にいたエメラの頭に飛び乗り、やれやれとでも言いたそうに彼女の緑色の髪の上で丸まる。
「お待たせしました」
外へ出たダイヤは木棒を軽く一振りし、それから両手で柄を握って構えた。
ガラの悪い男たちが木の棒で闘おうとしている彼女を見て笑っていたが、ゲオルグに笑顔はなく、彼は腰に差していた剣を抜く。
「では始めましょうか、ゲオルグさん」
「ああ、かかってこい」
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