第四話 ゴゴに住む
戸を開けて酒場に入ってきたダイヤは、その場の緊迫した雰囲気など気にせずに、店員がいるカウンターへと歩を進めていく。
そんな彼女の態度に、ガラの悪い男たちは呆気にとられ、妹らも固まってしまっていた。
それでもダイヤは気にせずに、店員へと声をかける。
「すみません。あそこにいる子たちが何か注文したと思うんですけど。私にも同じものをお願いしますね」
固まっている店員にそう声をかけると、ダイヤは店内を見回した。
先ほどの小競り合いでテーブルや椅子が転がり、店内は荒れ放題の状態だ。
それを見たダイヤは両腕を組んで両方の眉毛を下げると、独り言を呟く。
「何があったのかはわからないけど、こんな散らかってたらせっかくのご飯をおいしく食べれないなぁ。よし、店員さん。私が片付けますから安心してください」
ダイヤが固まっている店員にそういうと、彼女は店内の整理整頓を始めた。
まずはテーブルや椅子をテキパキと並べていき、それからなんと中身の詰まった酒樽まで端に運んでいる。
酒樽には二百リットル近く入っているというのに、ダイヤはそれらを軽々と担いでいた。
固まっていたガラの悪い男たちは彼女の腕力に完全に言葉を失い、もはや店のオブジェとなり果てている。
「相変わらず空気読めねぇな、ダイヤ姉は……」
「ですね……。子どもが見てもわかりそうなこの状況で、まさか注文して店の片づけまで始めるとは……。我が姉ながらおかしな人です……」
これには妹であるルヴィとサファイアも開いた口が塞がらない。
だがエメラだけは笑顔になっており、彼女の腕の中にいる黒猫のジュエリーのほうはいうと、「おなか減ったよ」と言いたそうにのんきに鳴いていた。
そんな異様な雰囲気の中。
何を思ったのか髭面の男ゲオルグも、ダイヤを手伝うように店内を片付け始めた。
ダイヤはそんな彼にニッコリと微笑んで礼をいうと、妹たちにも手を貸すようにと声をかけた。
エメラはすぐに返事をして手伝い出し、ルヴィとサファイアが顔を見合わせて呆れながらも彼女に続く。
鳴いていたジュエリーはエメラの頭から今度はダイヤの頭へと飛び乗り、そこで丸まる。
そんな黒猫にダイヤは、「もうちょっとでご飯が食べれるから」と声をかけ、頭の上にいるジュエリーのことを撫でてやっていた。
すると、じっとしていることに耐えられなくなったのか。
ガラの悪い男たちまで参加し始め、先ほど今にも騒ぎが起こりそうだったというのに、皆が一緒になって店内を綺麗にしている。
「よし、片付いたわね。じゃあご飯にしましょう。店員さん、さっきの注文をお願いしまーす」
テーブルや椅子を並び直し、それどころか散らかっていた店内を整理整頓し終えたダイヤは妹たちに声をかけ、続けて店員に料理を持ってくるようにお願いした。
意気揚々と席についた姉を見たルヴィとサファイアはまだ呆れていたが、エメラのほうは彼女の隣にあった椅子に腰を下ろす。
ジュエリーも「ようやくご飯だ」と言わんばかりに、ダイヤの頭からテーブルの上へと飛び降りていた。
「その前に、少しばかり訊きたいことがあるんだが」
しかし、当然というべきか。
先ほどの小競り合いが収まるはずもなく、髭面の男ゲオルグがダイヤに声をかけてきた。
ダイヤは片づけを手伝ってくれた礼をまた言いながら、何が
「訊きたいことってなんですか? あッ! わかりました! あれですね。私たちのことを初めて見たから、旅の途中に寄っただけなのかとか、そんなとこですよね」
「まあ、そんなとこだ。それで、あんたらは何しにこの町に来たんだ? まさかこんな
ゲオルグはダイヤたちの会話から関係を理解したようで、聞いてもいないのに家族だと口にした。
髭面に顔には深い傷と、見た目こそ強面だが、彼の周囲にいるガラの悪い男たちと比べると、ずいぶんと紳士な態度で訊ねてくる。
これにはルヴィとサファイア、そしてエメラも少し驚かされていた。
ガラの悪い男たちのリーダーなのだから当然、威圧的な口調で接してくると、彼女たちは思い込んでいたのだ。
まあ、テーブルに降りたジュエリーのほうはというと、相変わらずどうでもよさそうにあくびをかいている。
質問が明確になると、ダイヤは不敵な笑みを浮かべて席から立ち上がる。
筋骨隆々のゲオルグは当然、平均的な男よりも背が高いが、立ち上がったダイヤは彼とさほど変わりなかった。
「ふふふ、では答えましょう。私たちオルコット家の四姉妹は、今日からこのゴゴの町に住むことになりました!」
胸を張って声を大にして口にしたダイヤ。
それから彼女は、先ほど商人から町に家を買ったことを話し、自分の名を名乗ってから妹たちのことを紹介し始めた。
それを聞いていたゲオルグたちは、誰もが「何がそんなに
「というわけで私、コルネット家の長女ダイヤとその妹たちを、これからよろしくお願いします」
「そこまで言わせておいて悪いが、さっさと町を出てってくれ」
最後に丁寧に頭下げたダイヤに向かって、ゲオルグは吐き捨てるようにそう言った。
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