6-3
「まだ、なの……!?」
切っても切っても足はすぐに復活し、また襲ってくる。
いたちごっこだ。
私たちが守る中、祖母はもう一〇本以上の矢を打っているが、核はなかなか見えてこない。
それだけ穢れが大きいのと、蟲がもとの状態に戻るのもいつもよりも早いせいだ。
祖母に襲いかかる足を防いでいる私もへとへとだが、集中して矢を打っている祖母はもっと大変なはず。
さらに祖母が矢を三本打ち、ようやく赤く輝く核が姿を現した。
「威宗!」
「はっ!」
祖母が呼ぶと同時に威宗がビルの縁を蹴り、穢れへと大きく跳躍する。
――うおおおぉぉぉぉぉん!
祖母が御符を矢にセットして弓につがえると、最後のあがきとばかりに足が一気に襲ってきた。
「伶龍!」
「任せろ!」
伶龍が踊るように次々に足を叩き落としていく。
私もそれを、援護した。
その中で祖母が矢を放ち、核へ命中する。
瞬間、威宗が核を切り捨てた。
「やった……!」
さらさらと核は崩壊していった……が。
「……え?」
全員が目を見張り、穢れを見ていた。
「なんで、消えないの!?」
核が崩壊すれば、穢れは消えるはずなのだ。
なのに、その気配はまったくない。
それどころか半分ほどまで抉れていた蟲はまた集まってもとの形になり、ずり、ずりっと何事もなかったかのように前進を続けている。
「どういう、こと?」
なにが起こっているのか理解できず、誰もが呆然と立ち尽くす。
それが、いけなかったんだと思う。
――おおぉぉぉーん!
振り上がった穢れの足が、こちらに迫ってくる。
とっさのことで身体が動かない。
「翠!」
床を蹴った伶龍が、私を抱いてそのまま転がる。
その少し上を、足が凄い勢いで通過していった。
その軌道を追った先には、祖母がいる。
「ばあちゃん、避けて……!」
いつもなら機敏な祖母も、このときばかりは反応が遅れた。
「光恵様!」
威宗の悲痛な叫び声が聞こえると同時に、穢れの足が当たり、祖母が吹っ飛んだ。
「ばあちゃん!」
慌てて起き上がり、伶龍の手を借りて祖母のいるビルへと移る。
「ばあちゃん!
ばあちゃん!」
呼びかけるが祖母からの返事はない。
祖母の服は裂け、白い着物が赤く染まっていた。
「光恵様!」
すぐに威宗も、駆け寄ってくる。
「ばあちゃん、しっかりして!」
息はしている、死んではない。
すぐに手当てすれば助かるはず。
「……ったく、うるさいね」
少しして祖母が、開けづらそうに瞼を開いた。
「いててて……。
威宗」
「はっ」
威宗の手を借り、祖母が身体を起こす。
「騒ぐんじゃないよ。
ちーっと怪我をしただけだ」
少しのはずがない、祖母の呼吸は荒く、浅い。
かなりの深手のはずだ。
「たぶんありゃ、核が複数あるタイプだね。
昔、文献で読んだことがある」
「うん」
話しているあいだにも、祖母の着物の赤い範囲が広がっていく。
怖い、祖母まで亡くしたらどうしよう。
怖くて涙が浮いてくる。
けれどそれを、ぐっと堪えた。
これ以上、祖母を心配させるわけにはいかない。
「すぐに大ばあちゃんが到着する。
アンタはさっきと同じで、大ばあちゃんを援護しな。
きっと母さんなら、なんとか……して……くれ……る……」
祖母の声が次第に途切れ途切れになり、そのうち完全に途絶えた。
「ばあちゃん?
ばあちゃん!」
呼びかけるがもう祖母の瞼は開かない。
「……許さない」
「翠?」
心配そうに伶龍が、私の顔をのぞき込む。
「威宗。
ばあちゃんを後方へ運んで」
「はっ」
祖母を抱え、ビルの合間を跳躍してあっという間に威宗が去っていく。
すぐにその姿は見えなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます