5-2

ハロウィンはカボチャパイを作った。

……私が。


できあがったパイを不審物でも見るような目で伶龍が見つめる。


「……食えるのか?」


「失礼な!

私だって料理くらいできるよ!」


間髪入れず思いっきりツッコむ。

自慢じゃないが高校生時代、憧れの先輩に手作りお菓子の差し入れくらいした。

まあ、フラれたけどね。


「しかし、食えるのとうまいのは別問題だからな……」


なおも伶龍は悩んでいて、ムッとした。


「そこまで言うならもう、食べなくていいよ。

大ばあちゃんと春光と食べるから」


彼の目の前から、パイののったお皿を取り上げる。


「あっ。

食う!

食うから!」


すぐに伶龍が取り返そうと縋ってきて、ちょっとだけ気分が晴れた。


パイを切り分け、紅茶を淹れてやる。


「見た目はうまそうなんだよなー」


「……そんなに言うなら食べなくていいって」


お皿を持ち上げ、仔細にパイを眺めている伶龍を上目遣いでジトッと睨む。


「せっかく翠が作ってくれたんだから、食うに決まってるだろ!」


また取り上げられては堪らないと、伶龍は腕の中にお皿を抱き込んだ。

皿にフォークを突き刺して持ち上げ、大きな口を開けて彼はかぶりついた。


「もっと行儀よく食べなさいよ……」


つい、口から苦情が出る。


「食えば一緒だろ」


「それはそうだけど……」


彼に行儀など求めるほうが間違っているのはわかっている。

それでもこんなに雑に食べられて複雑な気持ちだ。


「意外とうまいな」


軽い調子で言い、さらに残りの半分を伶龍が口に入れる。


「意外は余計だよ」


それでもうまいと言ってもらえ、ほっとして私も口に運ぶ。

伶龍は甘いものが好きみたいだから、甘めに作って正解だったな。


「うん。

うまかった、ごちそうさん」


口端についたパイのカスを伶龍は拭った。


「残りはどうするんだ?」


彼の目が残りのパイへと向く。

18センチ型で焼いたので、まだかなり残っていた。


「大ばあちゃんと春光でしょ、ばあちゃんと威宗も食べると思うし……」


そのつもりで六等分した。

なのに。


「俺が全部食う!」


「あっ!」


ぱっと伶龍がパイの皿を奪う。


「独り占めしないの!」


「ヤだねー」


「ちょっ、伶龍!」


そのまま彼は皿を抱き抱えるようにして逃げていった。


「もうっ!」


怒りながらも悪い気はしない。

食べるまではあんなに疑っていたのに、そんなに美味しかったのかな?

伶龍ってけっこう、子供っぽいところがあるよね。

そういうところが可愛いとか言うと、怒っちゃうんだろうな。


「あ、そうだ」


クリスマスとか伶龍、喜びそうだな。

ちょっと計画、しちゃおうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る