3-4

――伶龍と喧嘩して一週間。


「穢れが、来るよ」


朝のお勤め、私たちを振り向いた祖母が重々しく告げる。


「えっ、早くない!?」


まだ伶龍と仲直りできていない。

なのにこんなに早く穢れが来るなんて。


「新年度はいつもこんなもんだろ」


「うっ」


ばっさりと祖母に切り捨てられ、なにも言えなくなった。

そうだった、春は新しい学校や職場への不満や不安、さらに使えない新入社員への怒りなどが渦巻いて、頻発するんだった。


「今回はばあちゃんに譲るとか……」


ちらっ、ちらっと隣に座る伶龍をうかがう。

私を避けている癖に彼は、朝のお勤めだけは欠かさず出てきた。

ひとことも私とは口をきいてくれないけれど。

それに穢れが来るとなるといつも大喜びなのに、今日は黙っていて不気味だ。


「なに言ってんだい。

今回は翠が祓ってきた中で一番大きな穢れだからね。

しっかり経験積んできな」


祖母は事もなげに言うが、この状況を把握しているんだろうか。

今まで小さな穢れでも上手く祓えたためしがない。

しかも今は伶龍と喧嘩中だ。

こんな状態で任務が上手くいくとは思えない。

本気で祖母は言っているんだろうか。


「大きいといってもA級だ。

今回は私らも控えるし、大丈夫だ」


「A級って特別警報レベルじゃない!」


穢れのクラスを聞いて思わず祖母に食ってかかっていた。

穢れはC級から始まり、B、Aと上がっていく。

A級は特別警報レベルで、多数の市町村に避難命令が出る。

いうなれば超大型台風みたいなものだ。

今まで私が祓ってきたのは全部、Cクラスだった。

なのにBをすっ飛ばしてAだなんて。


「〝ただの〟Aだ」


じっと祖母が私を見据える。


「……はい」


おかげでそれ以上、なにも言えなくなった。

穢れにはA級以上が存在する。

AAダブルエー級、AAAトリプルエー級だ。

特にAA級以上を〝大穢れ〟と称する。

母はAA級相手に命を落としたが、あとであれはAAA級だったんじゃないかという話が出た。


「A級なんてちーっと大きいだけのただの穢れだよ。

臆する必要なんてない」


「……はい」


祖母は過去にAA級と数度、戦っている。

そんな実戦経験者に私が意見なんてできるはずがない。


「今から準備にはいんな。

話は以上だ」


「わかった」


短く返事をして頷き、伶龍はさっさと拝殿を出ていく。

その背中を私は黙って見送るしかできなかった。

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