2-6

お役目は済んだので、家に帰る。


「疲れたー」


前日からほぼ丸二日、気を張りっぱなしだった。

しかも結果はあれだ。

疲れるというものだろう。


「でも、終わりじゃないんだよね……」


自分の部屋に戻りパソコンを立ち上げ、メールをチェックしてため息が漏れる。

そこには省庁の担当者から多数のメールが送られてきていた。

一つ一つのメールにさらに、大量のファイルがついてきている。

封じ込んで上手く核を破壊していれば、こんなにたくさんの書類処理に忙殺されずに済んだのだ。


「ううっ、伶龍め……」


彼を恨んだどころでどうしようもない。

とにかく少しでも進めようと、一番下から処理を始めた。


「翠様、よろしいですか」


ふすまの向こうから威宗の声が聞こえ、キーを叩く手を止める。


「なにー?」


「花恵様がお呼びです」


「わかったー、すぐ行くー」


「わかりました」


ふすまを開けることなく返事をする。

腕を伸ばして背伸びをし、首を倒して凝り固まった肩を解して立ち上がった。


伶龍も呼ばれたらしく、不機嫌そうに祖母の部屋で座っていた。

そしてなぜか、視力検査でよくみるランドルト環とひらがなの書かれた表が貼ってある。


「伶龍。

あんた、目が見えてないね」


祖母の言葉に思わず彼の顔を見ていた。

目が見えない?

そんなはずはないだろう。

まんがだって読んでいるくらいだし。


「は?

見えてるっつーの」


伶龍も同じらしく、不服そうに祖母を睨む。


「よく見えてないだろってことさ。

ほら、ここに立ちな」


強引に祖母は、印をつけてあった場所に伶龍を立たせた。


「両目でいい。

威宗が指す字を読みな。

輪っかは開いている方向だ」


「へーへー」


やる気なさそうに伶龍が検査表を見る。


「では、始めます。

これは?」


威宗が細い棒で一番上のひらがなを指す。


「……〝あ〟」


「これは?」


「……〝は〟」


ひとつずつ、威宗が指す文字を下げていく。

しかし、三つ目で。


「〝い〟?

いや、〝け〟か?

〝り〟の可能性も……。

大穴、〝し〟もあるか?」


思いっきり目を細め、伶龍は近づこうとしたが祖母に止められた。

それはいいが大穴ってなんだ?

視力検査にそんなものはない。


「じゃあ、これは?」


威宗が隣のランドルト環を指す。


「上だ!」


伶龍は自信満々だったが、残念ながら開いていたのは右だった。


「詳しい検査はしてみないとあれだが、これで伶龍は目が見えないのがわかった」


「……だから見えてるっつーの」


伶龍は完全にふて腐れている。

けれどこれで、核に刀が当たらなかった理由がわかった。

ぼんやりとしか見えていないから適当に当たりをつけて振り下ろしているからだ。

そういえばまんがもかなり近い距離で読んでいた。


「でも、矢とか足とかは防いでたよ?」


的確に彼はそれらを弾いていた。

なら見えていないとかないのでは?

でも、この検査結果だと確かによく見えていないんだよね……。


「空気の振動とかでわかるんじゃないかい?

あと本能」


祖母の隣でそのとおりだと威宗が頷く。

そうか、あれは無意識にやってるのか……。


「ばあちゃん。

刀が目が悪いとかあるの?」


伶龍は刀に宿る神様みたいなもんだ。

なのに目が悪いとか普通なら考えられない。


「あんだけ数がありゃ、中にはそういう刀だっているんじゃないかい?」


豪快に祖母が笑い飛ばす。


「そ、そうだね……」


刀選びで預かった箱を思い出し、引き攣った笑みを浮かべる。

あれだけ大量にあれば、伶龍みたいなハズレがあってもおかしくないだろう。


「とにかく。

手続きしとくから伶龍は眼鏡を作ってきな。

威宗、頼んだよ」


「はい。

かしこまりました」


恭しく威宗が頭を下げる。

それにしても態度は規格外、眼鏡が必要な刀なんて、つくづく私はなんてヤツを引いたんだ……。

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