第三章 A級
3-1
「待って、伶龍……!」
「もらったー!」
止める間もなく、伶龍が核へと刀を突き立てた。
「ああ……」
膝からその場で崩れ落ちる。
おかげで結局今日も、穢れが噴き出した液体でずぶ濡れになる羽目になった。
シャワーも浴びさせてもらえず、柴倉さんの説教が始まる。
「まったく、いい加減にしてもらえませんか?」
完全に彼は激怒している。
そのせいで自主的に地面の上に正座していた。
「……すみません」
詫びたところでなにもならないが、せめてもでしおらしく項垂れる。
「もう何月か知っていますか?」
「……四月、です」
咲き誇る桜は真っ赤に濡れていた。
せっかくの桜の名所だが、今年の花見は絶望的だろう。
「初陣からもう三ヶ月が経っているんですよ、三ヶ月が!
そのあいだに何度、討伐に成功したんですかねぇ」
片頬を歪めて皮肉る柴倉さんの口端はヒクヒクと引き攣っている。
「……0回、です」
穢れは月に一、二度出現し、今日の任務が五回目だった。
なのに今まで一度もまともに任務をこなせたためしがない。
「もうすでに今年の予算の半分以上を使っているんですよ、わかっていますか?」
「……はい、すみません」
祓う巫女が私になってから、除染費用がかなりかさんでいた。
決まった手順どおりに穢れを祓えば核は穢れた液体をまき散らさないので、除染は必要ない。
そして歴代の巫女はよっぽどのことがなければ、そういう事態にならなかった。
なので除染費用は別枠で特別計上が必要になり、何枚も書類を書いていくつもの会議を経て事後承諾してもらう。
あれは本当に大変で……うっ。
思い出したら胃が痛くなってきた……。
「このままでは大穢れが出現したときの予算が確保できなくなります」
〝大穢れ〟、その言葉にびくりと身体が震える。
「……はい、すみません」
まだそれが出現したわけでもないのに心臓がどっどどっどと強く脈打ち、冷たい汗を掻いた。
大穢れとはその字のごとく、特別警報が出されるほどの大きな穢れだ。
母はそれと戦って死んだ。
とはいえ、大穢れは数年に一度しか現れないが。
「とにかく。
いい加減、きちんと穢れを祓ってください。
お願いしますよ」
「……はい。
善処します」
「善処って無責任な政治家ですか、あなたは」
はぁーっと柴倉さんが憂鬱なため息をつき、はらりと前髪が落ちた。
私が巫女デビューしてからその頭髪が薄くなったように見えるが……気のせいだということにしておこう。
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