2-2

「おはよーございまーす……」


五時起きはさすがに眠くて、頭をぐらぐらさせながら食卓に着く。


「なんだい、眠そうな声を出して」


「だって眠い……」


力尽きてテーブルに突っ伏した私とは違い、祖母はしゃんと背筋を伸ばしてお茶を飲んでいた。


「さっさと茶でも飲んで目を覚ましな」


「そうする……」


頼んでもないのにすかさず威宗がコーヒーの入ったカップを置いてくれる。

本当に気の利く刀だ。

その反面、私の刀はといえば。


コーヒーを飲みながら、斜め後ろに立つ伶龍をちらり。

ヤツは相変わらずネクタイを緩めて第二ボタンまで外し、間抜けな大あくびをしていた。

もうきっちり身支度し、祖母どころか私の世話まで焼いてくれる威宗の爪の垢を煎じて飲ませたい。


ようやく目も覚め、祖母と一緒に拝殿へと向かう。

刀を授かり日課が増えた。

それが朝のお伺いだ。


祭壇の前に立つ祖母の後ろに正座で座る。

伶龍も渋々ながら隣に座った。

……ただし、あぐらで。

そんな彼を祖母が横目で睨みつける。


「……ちょっ、伶龍」


慌てて伶龍の脇腹を指でつつくと、今度は私が彼から睨まれた。

それでも負けじと睨み返す。


「……はぁーっ」


大きなため息をつき、嫌々だけれどようやく伶龍は正座してくれた。

しかしこれは私の言うことを聞いてくれたのではなく、祖母が怖いからだ。


準備が整ったところで祭壇に向かい、祖母が祝詞を唱えはじめる。

こうやって毎朝、神様のご機嫌を伺い、穢れ出現の宣託を受ける。

これは巫女の大事な役目だ。


「……ぐぅ」


隣から小さないびきが聞こえ、びくりと肩が跳ねる。

おそるおそる隣を見たら伶龍が船を漕いでいた。

気持ちはわかる、朝も早く、独特のリズムの祝詞は眠気を誘う。

けれどこれは神聖なお役目なのだ。


「……伶龍、起きて」


祖母に聞こえないように小さな声で声をかけ、彼をつつく。

しかし彼は起きそうもない。

不意に祖母の声が必要もないのに一段階大きくなった。

きっと、気づかれている。

また怒られるのかと心の中でため息をついた。


「ふぅ」


奏上が終わった祖母が小さく息をつき、振り返る。


「……穢れが、来るよ」


静かなその言葉は酷く重く、知らず知らず背筋が伸びた。


「来るのか!」


途端にそれまでうつらうつらしていた伶龍が目を覚ます。

その目はらんらんと輝いていた。


「ああ、あんたたちの初陣だ。

上手くやんな」


にやりと祖母が片頬を歪めて笑う。


「よっしゃー!

やってやる……!」


伶龍は立ち上がり大興奮だが、私には不安しかなかった。

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