P5-myrtus-

ー王族の訪問から2日後ー


王族との戦闘から2日が経った頃、レヴィの私室には目に涙を浮かべ鼻を真っ赤にしたプーシィがレヴィに抱きつき悶える姿があった。


「……うっ……うっ…」

「……………プーシィ……もうあれから2日経ったし、もう泣くのは終わりにしないか?悔しいのは分かるけどさ、私のメイド服はお前さんの鼻水と涙でぐちょぐちょだよ…』

「……っう…だって…まげるど…っおもわなくで…し…しかも"あいつ"にや…っやられたのが更にく…くやし…っぐで」


うーん、2日経っても収まらないとなると本当に悔しいんだろう。更に、プーシィの"苦手な奴"が相手だったからな。



ー2日前のことー

 

『じゃあ始めるよー』


プーシィは掛け声と共に戦闘を開始した。

己の武器である"ファブニール"をメルボルンめがけて振り下ろす。

プーシィのファブニールは長い柄の先に巨大な打撃石が付いたハンマーのような武器であり、先にある打撃石は相手の魔力量により形状が変わる特殊な武器である。

魔力量が高ければ高い程、打撃石の形状はより奇怪な形に変化する。

メルボルンに向けて振り下ろされたファブニールの形状は至って普通のハンマーの形をしていた。


メルボルンを護るべく数名の騎士達が立ち塞がったが呆気なくメルボルン諸共潰されてしまった。

あまりに唐突な出来事であった為に残された騎士達とアサシンはその場に立ち尽くしていたがすぐに冷静さを取り戻したようだった。


騎士達はプーシィから距離を取ったが、アサシン達はプーシィを取り囲み一斉に襲いかかる。


「もうちょっと頭を使った戦い方をしなよ。それでも殺しのプロなの?」


プーシィはそう言いながら、ファブニールを全方位に向け一振りしアサシンを大方殲滅していく。

間一髪の所でファブニールの攻撃を避けた者もいたが、プーシィはそれを見逃さずファブニールの起動を即座に変え追撃を加えていく。



……しばらくしてアサシンは全滅した。


遠巻きにその様子を見ていた騎士達は顔面蒼白であり、今にもダンジョンから逃げ出したい心情であった。だが、そんなことを彼女が許すはずがない。

広大な広間の中央で武器を振り回し、笑いながらアサシン達を殲滅するような血の気の多いレディーズ・メイドが…我々を逃がしてくれるはずもない。……とその場にいた全員が同じことを思い、死にに行く覚悟を固めようと必死だった。


「早くおいでよ。……私は君たちの主人に逃げるチャンスをちゃんと与えたよ?でもブローチを諦めずに戦う意志を見せたのはそっちなんだから。最後までやり合うべきじゃない?」


プーシィは可愛らしい声で騎士達に問いかける。


今回の騒動は圧倒的にレヴィが悪いが、ダンジョンのランド・スチュワードは自分勝手なものが多い為、盗まれた方が悪いという考えになる。

それに、レヴィは少なからず慈悲を彼らに与えていた。ブローチを諦めていればメルボルン含め大勢のものが死なずに済んだのだから。


プーシィはファブニールを引きずりながら騎士の元へゆっくりと歩みを進めていく。


その間に騎士達も覚悟を決めたのか、1人の騎士がプーシィに向け突撃した直後に残りの騎士も剣をにぎり斬りかかりに行く。

だが,抵抗も虚しく騎士達はファブニールにより潰れ、投げ飛ばされ、身体を抉られ、全滅の一途を辿っていった。


粗方戦いが終わり、プーシィは最後の1人に目を向けていた。

メルボルンに殴られていた使用人である。


「あとは君だけなんだけど。1人だけ逃したら死んでいった彼らに申し訳ないからね、だから君も殺すよ?」


プーシィはそう言い放ち、ファブニールを使用人に向けた。

すると…その直後、ファブニールの打撃石の形状が赤黒く獣の頭部のような奇妙な形に変わる。


「!!!…お前使用人じゃないな!ファブニールの反応からして………"訪問者"だね、この魔力量は」



「………」

「いやぁー全く気づいてくれないから、どうしようかなぁーと思ってたんだよねぇ、幾ら会うのが久しぶりとはいえレディーズ・メイドがここまで気づかないのはダメなんじゃなぁい?プーシィ」

「!!!…えっ!やだぁ!あんたの相手なんてしたくない!さっさと消えてよ!"マートル"!!」



≪打撃のマートル(人間)≫

訪問者(ルナ)の1人であり、レディ・メイデンから相手を薙ぎ倒す力[打撃]の恩寵を授かった者。

彼の武器は"ギンバイカ"と呼ばれるグローブであり、相手に攻撃が当たると花火のように爆発が起こる。当たりどころにより爆発の強弱が変わる特性を持ち,5〜10の段階に分かれる

四肢:5点(骨が折れる) 胴体:6点(肉が抉れる)

頭部:7点(死) 鳩尾:8点(死)

首:9点(死) 股間:10点(クリティカルヒット=死)

※相手が一般人の場合であった時の大体の値の為、相手により殺傷能力に差あり。



…………


「ほんとに気付いてなかったなんて……ブラッディ・レディからお仕置きされちゃうんじゃなぁい?あと、早く消えて欲しいならブローチを渡して欲しいんだけど?」

「……なんで、あんたが王族のブローチなんて欲しがるの?今回の目的はブローチだとして何に使うつもりなのよ?」

「個人的に必要としてるわけじゃないよ?ただ今回はメルボルン王家に雇われててね?危険なダンジョンに騎士とアサシンだけじゃ不安だからってついて来させられたんだよ。…まったくさぁ、自分の事は自分で蹴りをつけて欲しいんだけど。でも大金貰っちゃってるからちゃんと最後までやらなきゃね」

「自分の雇い主、呆気なく死んじゃってるんですけどぉ?死んでるならブローチを回収する必要なんてないでしょ」

「あぁ、いいんだよ。わざと死なせたんだから。僕の目的はあくまでブローチで私の雇用主はアイツじゃなくて王家だから。それに、管理者に敵対する物言いをした時なんか肝が冷えたよー。訪問者であっても管理者を相手にするのは勇気がいるからね。」

「それに関しては、同意見だしナイスな判断だったと思うわ」

「そうでしょー?なのにあいつ私の助言を聞かずに手まで上げてくるから頭に来ちゃった。だから死なせたんだよね。王位は息子が継げばいい…し…!!」


プーシィがマートルにファブニールが届く位置まで一気に走り抜け、思いきりファブニールを振り下ろした。

マートルは避けきれずに正面からファブニールの攻撃を受け、壁面にめり込んでいた。


(話し込んでいて油断してたから意外とすんなり攻撃が当たったけど…これで死ぬようなタマじゃないのが残念ね)


白煙が徐々に消えていくと…

プーシィの思惑通り、マートルは壁にめり込んではいるがファブニールの攻撃をギンバイカで受け止めきっていた。



「……っいったいねぇ。君は人の話を最後まで聞くことが出来ないタチなんだね。だから子供は嫌いだっつうんだよ」

「誰が子供ですって?こっちはあんたより長く生きてる分経験を積んでるからね!相手が油断してる隙に攻撃した方が仕留めやすいに決まってるでしょ?」


プーシィは会話の最中も攻撃の手を緩めず、マートルめがけてファブニールを振り下ろす。

だが、マートルの[ギンバイカ]とプーシィの[ファブニール]は共に打撃武器であるためお互いの武器同士が衝突した際の力が分散されやすい。

通常であれば龍人であるプーシィに軍配が上がるが、メイデンの恩寵を受けた訪問者の力は侮れない程強力なものになる。


プーシィがファブニールを振るうタイミングでマートルがギンバイカを打ち込んでくる。その度にプーシィは己の尾を振り、身体の向きを調整し攻撃を避けている。

だが、お互いの攻撃を捌ききれている訳でもない。

マートルはファブニールの攻撃を避けた際の風圧で切り傷が多く出来ており、プーシィは5点の攻撃を数回受けており青アザができていた。


「……っ前に戦った時は長期戦になったから…今回は早めに終わらせたいね…っ…」

「じゃあ、さっさとくたばってよ!マートル!」

「それは死ねって事だろ!無理だね!…っこのクソガキ!」


現在のファブニールは赤黒く獣の頭部のような形状の打撃石であり、先程から口を閉じた状態で戦っていたが戦闘を早く終わらせたいプーシィがファブニールに魔力を込め出す。

すると…獣の口が開き、命があるかのように動き出す。

そして、マートルにファブニールを打ち込むと打撃石の獣がマートルの胴体に噛みつき鋭い牙を食い込ませていく。

マートルの顔は苦痛で歪み噛まれた傷からは血が溢れ出す。そして口からは野太い声が漏れ出ていた。


「…っ!!!あぁぁぁあ!!!」


(早く倒れなさいよ!!)


プーシィは勝ちを確信し、ファブニールに魔力を込め続けていた。


「………っ!!!」


だが、マートルが垂れ下がった腕を持ち上げ即座にプーシィの顔面に向けギンバイカを打ち込んだ。


ドッガーーーン!!!!!!


凄まじい音を立てプーシィは吹っ飛んでいった。

壁に激突したプーシィはそのまま地面に落下し、倒れこんだまま動かない。彼女の顔は爆発の衝撃で血だらけになっていた。


プーシィに重い打撃を打ち込んだマートルも、胴体部分から血が流れ出し深手を負っていた。


「あーーー、血が止まらない。でも、ブローチは持って帰らないと…」


己の使命を思い出し、マートルはふらつきながらも立ち上がりプーシィに近づこうとする。

だが、プーシィの側には既に女がいた。


「ブラッディ・レディ……はぁ、このタイミングで来るかぁ…」

「……………」



水晶で一階層の様子を見ていたレヴィがプーシィの具合を見に来ていた。

(あちゃーこれは結構酷くやられてるわ。プーシィの顔がぐちゃぐちゃになっちゃってる…ヒールを使えるやつに頼んで治してもらわないとね)


「マートルだっけか、訪問者なだけあって威力が凄いね。メイデンもとんでもない物を授けてくれちゃってるわ…」


レヴィはマートルに向けて歩きだし、目の前で立ち止まる。


「はい、ブローチ」

「えっ!」


マートルに盗んだブローチを渡していた。


「……なんですんなりブローチを渡すんですか」

「盗んだのは悪かったと思ってるから。あと一応プーシィを倒しただろ?ほぼドローみたいな雰囲気だけどね……それに、勝者には宝を渡すのがダンジョンだし。あと気分」

「……気分…」

「ああ、ボロボロの所悪いけどもう一つ。前来た時は龍人の角が目的で来て、プーシィの角をへし折って逃げただろ?あの角はどうした?」

「骨董品屋が高く買取りたいと言ったので売りました…」


(あれって骨董品扱いなんだ…売られたこと知ったら怒りそうだなぁプーシィ…)


「じゃあ、もう帰っていいよ。」

「え…あの…殺さないんですか?一応訪問者なんですけど…」

「殺しが趣味って訳じゃないし、ギザにとって脅威に感じたら殺すって感じ。…じゃ、そういうことで。」



言いたい事だけ言い残し、レヴィはプーシィを連れてその場から立ち去った。

残されたマートルはよろけながらも歩き出しダンジョンを後にした。




P5end→nextP6

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