ep. アランside
後継者の勉強が本格化してから、ハンナと遊ぶ時間がめっきりと減ってしまった。
歳も離れてできた紅一点の妹。愛らしいハンナも、ここ最近はひどく寂しがっている様子なのが僕としてもツラいけど嬉しい。
けれど僕がルーウェン家をきちんと支えて受け継いでいくことが、ハンナの愛らしいその笑顔を守ることに繋がると、僕は歯を食いしばって耐えていた。
「ハンナ、今日は時間ができたから、僕と遊ばない?」
「ごめんなさい、今日はお兄さまとお約束しているの。また夜にね、アランお兄さま」
愛らしい笑顔と共に返って来た返答に、僕は我が耳を疑った。
「はぁ? アラン兄が声かけろって言ったんだろぉ?」
ライトの要領を得ない返事を聞き終わる前に、僕は2人の姿を探して走り出していた。
日に日に距離の近くなる2人を眺めては、言い知れない感情に振り回される。
そんな最中に、あの忌まわしい事件が起きた。
僕だったなら、決してハンナから目を離さなかったのに。
僕がライトに声を掛けろと言わなければ、こんなことにならなかったのではないのか。
彼は悪くない。むしろ感謝すべきだと頭ではわかっていた。けれど感情が追いつかない。
彼を忘れ、取り乱したハンナを見た。ぶつけ場所のない、強い怒りに支配される。
彼をハンナに近づけるべきじゃない。
僕が口を開く一瞬前に、彼の口から同じ意味合いの言葉が溢れ出た。
細く、弱々しい、ライトと同じ年の少年が、ひどく困難な生い立ちであることは、何となく想像に容易い。
その彼が、やっとのことで見つけたのであろう居場所を、自ら手放したのと同時に、僕が奪おうとしたのだと自覚した。
その言葉通りに彼は姿を消し、ルーウェン家には束の間の平和が訪れる。
気づいてしまった自責の念から、彼の幻影を忘れられなかったのは僕だった。
「……ルドガー・ヴァーレン卿は、元気かい?」
「あ? まぁ元気なんじゃねぇの? そんな変わんねぇよ。……つか、何でアラン兄がルドを気にしてんだ?」
ライトに度々不思議そうな顔をさせながら、時折彼のことを尋ねる。
何ができる訳でもないかも知れないけれど、もし何か出来ることがあれば力になろう。そう決めた。
大切なハンナを、僕の代わりに守ってくれた人だから。
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