り:り:
あの日も、るんるんで公園に行った。土日も挟んだし、話したいことがいっぱいたまっていた。
騎士よりはやくついた。ブランコに腰掛ける。お気に入りのピンクのスカートがきたなくならないように、シルクのハンカチを下にしいた。
遅れるだなんてなにごと。待ち合わせはしてないけれどね。
……なかなか来てくれないや。
まだかなー、まだかなー。考えて赤くなる空をながめた。ブランコをキコキコ、キコキコゆっくりと漕いだ。
——あのブランコはもうないかもね。あのころでも古かったくらい。
こないなあ。
ちょっと背伸びしてつけた茶色い革の腕時計は一九時をさしていた。冬の太陽は落ちるのが早くて、もうまっくら。
それでも待とうとしたのに、スマホに母親からの着信が入った。おわりのお知らせ。
騎士は現れなかった。
その後も何日も行った。
……やっぱりこなかった。
たぶん、他のひとのお付きになったのかもね。私はもう捨てられちゃったんだ。
自分自身を納得させるのには何日もかかった。理解は今でもむり。
納得させてからは早かった。
私は一層勉強に身を入れた。一日中勉強した。暇な時間は小説を読んだ。
社交場みたいなところでもがんばった。
作法にうるさい両親への期待にも応えた。全部やれるようになれた。舞踊だってお茶だって華道だって。みんなよりもうまく、はやく、ていねいに。
社交場へ私は仮面を付けて出席していた。
他のみなさま方は、付けてはいなかったように思う。失礼な人たちだね。
そういう場所に行くたんびに、仮面は分厚くなっていって大きく重くなった。周囲からの印象も良くなった。病弱の女の子からお姫様にもなれた。
周りが喜んでくれたら私もうれしい。みんなもうれしい。
私はシアワセ。
早く騎士にあいたいな。
私は大丈夫だよ。
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