り:
大きい医院。看護師さんもたくさんいた。私は権威なんてものもきらい。
学校終わってから、ちょっと遠くの公園で泣いてた。
ブランコでなら誰もいなかったから泣くこともできた。
あんまり普段は泣くことなんて許されなかった。泣きたかった。声は出せなかった。声を出さずに泣いた。
そこにあのひとがきた。
「なんで泣いてるの」
名前も知らない彼は、とっても自由なひとだった。短髪の額にはいっつもドロがついていたから元気なんだなあって思ってた。
この男の子は、泣いてたのが聞こえたんだ。
彼の純粋な笑顔を見るのが好きだった。たははって笑うの。
でも彼は聴くだけ。
「みんなが私をいじめるの」
誰にも言えなかったことが、すんなり出た。
両親や消えた兄にならもちろん、小学校の先生へも上手くは伝えられなかったことばっかり。
彼は黙って聴いてくれた。
それだけでよかったんだ。だれーもしてくれなかったから。
「うん。またここへは来てね。君の話を聴きたい」
何度も公園のブランコで待ち合わせをした。というか、私が待ってた。彼はいつも私より先にいた。
いっつも彼は聴いてくれた。私は甘えちゃった。ずーーーーっと私が話しつづけた。
いちどだけ、彼のひざに絆創膏をつけてあげたかも。
彼は相づちを打つわけでもなかった。なんにもかえしてはこなかった。
心地よかった。大好きな時間。綺麗な思い出。誰にも言えない思い出。
このまんまでよかったのに。
名前もわからない彼は、私の騎士だった。
ファンタジー小説で読んだ騎士みたい。かっこよくてりりしい。
小学五年生にあがったときに、塾の勉強がより難しくなった。
宿題も多かったけれど、騎士に会いたいって。がんばって終わらせてから公園に通った。
話はつきなかったよ。
彼のほうから話し出すこともあった。よく変なことを言ってた。
「能ある鷹は爪を隠す、って知ってる?」
「うん! 塾でやった!」
彼がうつむく。私は彼のきれいな顔をのぞきこむ。
「能ある鷹は爪を隠すとは、伝わってるけどあれは甘い。噛んでるくらいがいい」
「なにそれ。……よくわかんないや」
彼は、たはは、って笑う。私もつられて、ほほ笑む。
ああしあわせ。ずっとつづいてください。
あの笑いかた好き。言えなかったけれどね。
彼はときどき変なことを言う。でもおもしろかった。
いまでも変な人だね。
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