第13話 学生会館への道すがら

「文芸系のサークル立ち上げようとしていてな」神戸は語る。「誰も賛同してはくれない。初期会員だから自由にやれるぞ。今であれば。まあ俺しかいないわけだが。学生会館でゆっくり詳細について話そう」

 それはサークルとして成り立っているのかどうか微妙なところではある。大学側もよく申請を通したな。

「今は無認可の野良サークル扱いだ。申請は手間がかかる。もちろん部室なんてない」

 あ、なるほど。

 由鷹と長谷川も、納得する。

 学食へではなく、キャンパスの学生会館へと三人は移動する。

 道中、長谷川が単刀直入に質問をしてしまう。危ない子だ。

「どうして神戸さんはスーツなんですか?」

 神戸は間髪もなく食い気味、しかも早口で返す。

「楽じゃん。中高では制服しか俺は着てない。服を選ぶの面倒なんだよね」

 本当にレアなことではあるが、由鷹も食いつく。彼が人間に興味を持つことは本当にたまにしかない。他人には無関心な男ではある。

「スーツはお高いでしょう」

「ううん。プライベートでも休日でもバイトでもスーツ。三着持っていて回してるはいる。まとめ買いしたら安く済むのだよ。来年に就活でも買わないとなんで。その日の気分でネクタイを変えりゃいい」

 この神戸は面倒な学生ではなく面倒くさがりな性格のようだ。由鷹は感心した。彼も神戸の話を傾聴しようと神戸の顔をじっと見つめる。

「でも、クリーニング代はかかるのではないですか?」

 長谷川はまた尋ねる。彼女もまた興味を持ったようである。

「構わないよ。正味金には困ってない。バイトもしてる。高時給。拘束時間長めではあるが暇潰せる」

「神戸さん。申し訳ないのですが、バイトについてもあとで相談乗っていただいてもよろしいでしょうか」

 由鷹がさらに喰らいつく。

「構わない。うちの塾は人足りてないんで。彼女さんは興味ある?」

「いいえ。私は大丈夫です」

 あっそう、と淡泊な返し。

 ベタベタ二人がしていたことを根に持っているのだろうか、そう諸君は思うかもしれない。実は神戸がそんなに他人への関心がないだけなのである。

 神戸もそれなりに端正な顔立ちであるから女子学生からお声がかかりそうなのに。

 蓋し、中性的な見た目だけでも十二分にそうであろう。要は面倒だからである。

「学生会館なんて今の時間帯は人が少ない。座れる」

「「はーい」」

「やっぱ気が合うんだな……。誠に許せん」

「はい!」

 長谷川が元気に応えた。

「ここで彼女のほうだけに言われるのも腹立たしい」

 えへへ、長谷川は照れる。

 逆に由鷹は口をつぐむ。

「なんか君らへは話しかけないほうがよかったかね」

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