第12話 サークル勧誘
「なら、これは取っておいたら」
シラバスをスマホで見せつつ、由鷹は伝える。
「ふんふん」
長谷川は、手帳にボールペンを走らせている。
本当にわかっているのかな、由鷹はやはり疑問に思う。まあ、大丈夫だろう。この子、いちおう首席だし。
「わかりました! ありがとう!」
「いえいえ。どいたま」
なにも考えずに歩いていたら、到着したのはキャンパス。三限にはゆとりを持って間に合う。
出席してもよいのだが、初回は大抵ガイダンスで説明のみだろう。二人ともこの曜日の三限まではコマを入れないつもりだ。
「……あのですね」
「どうしたの」
もじもしとした長谷川の態度を察して尋ねる由鷹。お腹を左手で抑える長谷川。
「……お腹が鳴きました」
「うん。生協かな」
いえ、と言ってから長谷川はがさがさと、がま口の財布を取り出す。年季の入った財布だ。彼女には似つかわしくない。
猫の入った黒い柄と、開けるところの金属は綺麗である。手入れは念を入れてしているようだ。
「お金に余裕はありますし、おごらせてください」
「ありがとう。いっぱい食べるね。食堂いこ」
「はい!」
一応、生協は開いている。早い時間帯なら品物も充実していることだろう。財布にもやさしい。
「お礼がしたいので」
「うん」
由鷹と長谷川はまた歩みを進める。その割にはまったりとしている。
往々にして新入生というものは、声をかけられやすい。授業に出れば一つ上の学年の先輩からも気安く話しかけられることもある。打算的にはなってしまうが、新入生はサークルへ勧誘もしやすいことだろう。
「もしや、君ら一年?」
髪の長いリクルートスーツの男が、二人に話しかける。ネクタイは、ハート柄だ。
二年なのか三年の就活中なのかも不明。不思議な雰囲気をまとう優しげな瞳をした男である。
「あ、はい」
「そうですよ! あなたは先輩ですか?」
「おう。俺は二年の神戸。……先輩とはくれぐれも言わないでほしい」
「「わかりました」」
神戸はあっけにとられる。
この関係性不明な仲の良いお二人さんは、お互いの顔を見合ってほほ笑む。
「……バカップルか。リア充め」
いえ、と由鷹だけが神戸を見ながら言う。いささか長谷川は不満そうにも見受けられた。
「話しかけて損したわ……。訊いておくが、小説執筆には興味ある?」
「はい!」「はい」
「……」
また神戸は黙った。
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