第11話 渋谷ぶらぶら

 由鷹と長谷川さんは、歩調は同じ。ゆったりと渋谷を歩いていく。

 朝の渋谷はまだ肌寒くもある。

 目的地は大学でも喫茶店でもない。行き先など設定しなくとも歩いていれば何かがある。それが東京、渋谷という街だ。店は多い。朝からやっているところも多い。

 渋谷の街の道路は車が入れることは入れるが、総じて狭い。曲がりくねってもいる。

 長谷川さんがふらふらと吸い寄せられるように、展示してある服のほうへ歩みをすすめる。

 由鷹は、長谷川さんの腕をつかむ。長谷川さんは、声もあげない。その意図を正しく理解する。

「あぶないよ。一応車も通る」

「ありがとう」

「ううん」

 端から見れば、長年連れ添った老夫婦のような温かさを感じる程度の距離感。若すぎるカップルというよりかは。

「本題に入ろう。君はなにをしたいの」

 長谷川さんは、相変わらずすぐに返答をする。

「いちおう、医学部へ進む予定です」

 由鷹が珍しく思い悩む。

 たはは、と笑う。マスクを外していた由鷹は気づかれないとは思ったが、長谷川さんはそれを見て、

「なにかおかしいですか?」

 と早めの口調で言った。

「ううん。大変だなあって思って」

 長谷川さんも何かを感じ取った。

「そうですね。入試は大変だったと思います。皆さんも、由鷹くんも」

「うん。君もね」

 長谷川さんは、やはり微笑んだ。今日はマスクのせいで、えくぼは見られない。つられて由鷹も吹き出す。

「もー。また笑った。怒りますよ、おこ」

 ポコ、と擬音が付くくらいやさしく由鷹の背中をたたく。

「いて」

 由鷹は痛くはないだろう。

 茶番を続ける。こういうところは年相応である。

「えと。履修登録はどうしようかね」

「はい!」

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