第10話 またあえたね

「わかった。君が空いている時間に相談しよう」

 メッセージは続いていた。

 こうとだけメッセージで飛ばして様子を見る由鷹。

 彼は自分で物事を決めない。相手に決断を委ねてから自分が無理であれば、代替案を求める。変わり者である。

「苦しゅうない。渋谷にもうすぐ着きます。待っててもいいですか」

「苦しゅうない」

「り」

 なんとか終えたメッセージに安堵する由鷹。彼は荷物をまとめたとはいえ、ここから渋谷までは一時間半はかかることに気づく。

「一時間半。時間潰してくれる」

 と送る。既読が付くのは早い。

「り、り」

 返事も早い。

 これでいいかな、由鷹は荷物を持ってゆったりとしたペースで靴をベラを使い履き、自宅の扉を開ける。

 JRの緑の電車は朝が大変混む。

 早い時間帯でも座れることはまれである。ラッシュアワーであれば身動きすらとれない。やばめの男も多い路線である。始発である隣駅まで自転車で行き、軽く汗をタオルで拭いてからホームへ。その間に水分補給を済ます。

 待機列の一番先頭に並び、本を広げる。電車が来れば乗り込むだけ。簡単である。

「へー。新作出したんだ」

 スマホでは、新刊の情報を仕入れる。裏では、麻雀のアプリでリーチをかけた状態でツモを勝手に切っている。オートであがる設定でもある。

「振り込んだか。めんたんぴん。あ、裏乗った」

 対面は飛ぶ。怒りのスタンプが飛び交う。

 リーチがかかったらカンをしてはいけないのだ。そりゃ裏ドラも乗ってしまう。

 一時間半程度で、渋谷に到着する。

「いまついたよ」

「ハチ公の前にて」

「り」

「り、り」

 省エネで良い会話だ、由鷹は感心した。

 ハチ公前には、既にいろいろな人々が待機していた。若い人が多めではあるが、老若男女様々である。平日だからスーツなんかのフォーマルな格好の方が多め。

「由鷹くん!」

「いた」

 すぐにあちらから見つけてくれる。由鷹は安堵する。長谷川さんは覚えていてくれたようだ。

 長谷川さんは、やはり同じ帽子、マスク、伊達めがねである。

 あのときと違い、服装はカジュアル。

 白いワンピース。このスタイルだけでも、世の一般的な男性の視線は集めること間違いなし。

「また逢えたね」

「うん」

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