第9話 履修登録の相談

 突然だが、由鷹の朝の行動は以下の通りである。

 早く起きる。

 五時ちょうど。アラームなしで目が覚める。

 以前こそアラームは付けていたが、その前には起きてしまうである。もう必要がない。

 それからは時間通りに事を進める。

 起き掛けに軽くひげを剃り洗顔。寝ている両親を起こさないように、ゆっくり丁寧に歩きつつ,

飼い猫のコマリさんに餌をやる。カリカリのフードを定量。水も交換する。

「お前も年を重ねたな」

 このコマリさんからの返事はない。由鷹を背にして餌をむしゃむしゃ食べるのみ。齢十二年。もうそろそろ尻尾も増えそうである。猫又ってやつにもなるかもしれない。

 コマリさんが餌箱から離れて水を飲みに行く頃には、スマホを確認する。

 LINEの通知があった。

 黒江 りお。犬内。

 こやつらは常連でここ数日前から毎日のように連絡をよこす。時間を考えないので、深夜に履修登録についてのおすすめみたいな質問を投げてきていた。

「自分さ、文系だしひまな時間を多めに取りたいんだよ!」

 りおからのLINEへは、

「授業の難易度は確認して」

 と。

「俺さー。適当にコマ入れたいんだよね」

 犬内からのには、

「進むのに必要な単位を確認して」

 と、あしらう。

 この二つへの返信はすぐに終わった。

 そのあとは、散歩に行くため家を出る。寝巻きのジャージのまま行く。

 由鷹は歩くことが好きである。基本的に運動はなんでもイケるのだ。

 気分でも天候でも、コロコロとコースは変えるものの、ある程度は一定である。

 あぜ道をゆっくり歩く。雨の日の後にはこの道は通らないが、今朝は晴れている。昨日も晴れていた。

 散歩から帰り、手を洗ってから六時半には、アコースティックギターをいじる、わけではなく爪をけずる。軽くチューナーで愛機のギータの調子を整えてから朝食を取る。

 コーンフレークと牛乳。量は多めである。コマリさんが牛乳を欲しがるが、由鷹はコマリさんの体調を気遣って決して与えずに、またあしらう。

「これこれ。だめだよ」

 ムーっと怒るコマリさん。

 踵を返してトボトボと寝床に帰っていく。まだ四月上旬。寒いのだ。

 寝床は日光が当たってあたたかいので、コマリさんはそこでいつもお休みしている。

「おまえ、寝ている時間が増えたな」

 聞こえてすらいないのか、コマリさんの尻尾も動かない。いつもならピクピク動かしていたのに。やはり歳かな。由鷹はコマリさんを見つめる。彼の目も寂しそうに見える。

 七時を回ってそろそろ出るかなと、支度をする。前日には準備は済ませてあるので、着替えを残すのみ。

 ふいに勉強デスクの上のスマホが振動する。木の合板で出来ている机は妙に音がした。

 普段サイレントモードや集中モードを積極的に使っているため、由鷹は不思議に思う。スマホをのぞく。

「おはようございます。由鷹くん。久しぶり! 長谷川です。朝早くに申し訳ありあせん」

 原文のままがこれである。

 由鷹はこの危険物の取り扱いに非常に苦慮する。「どうしたの?」だと軽い。「大丈夫?」と踏み込むのもなんか違う。

「うん。おはよう」

 と、だけ付けて送信した。返信の返事待ちである。

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