第8話 読書仲間(仮)

 日本にある大学では、入学式とオリエンテーションのような歓迎イベントを終えても、一段落できるわけでもなく履修登録を行う。

 引っ越しなんてものは、三月上旬には終わらせておいて、その土地に慣れておかないと成り立たない。試験日程などで仕方のない学生もいるが。なるべく早めがよいだろう。

 オリエンテーション内では、教授なんかからも履修登録を進めろ、はやく進めろ、と延々耳が痛くなるほど伝えられる。

 由鷹たちの通っている大学も同様である。

 学生は大抵名門私立の中高一貫出身者ばかりで、

「中高どこ?」

 なんて言葉を初対面の挨拶に使うような大学である。

 名門の中高からは、それなりの数が入学してくる。上下の繋がりも中高一貫の六年間を経た上であれば、同学年は当たり前。先輩と後輩も強固。浪人勢も混ざるため、大変カオスな様相と化している。

 由鷹はある意味、孤独であり孤高であった。

 周りからは二年生だと認識されて、声をかけられることはない。

 他の新入生たちがワイワイガヤガヤと自己紹介や、久方ぶりの再開を祝している最中に由鷹は小説を読んでいた。イチョウの木の下のベンチに座って。

 普段は警戒している野生の鳩も由鷹になら気を許す。

 彼の足元にもたくさん寄ってきている。彼は気にしない。鳩の邪魔はしない。

「これ新刊でしょ?」

 とある女学生が由鷹に話しかけてきた。鳩たちも警戒して逃げていく。彼にとっては高校でよくあったこと。今でこそあまりないことではある。

「ん、ああ。一昨日発売」

 その女学生は華やかな装いの割に短髪で、明らかに運動が好きそうだった。

 ……筋肉のつき方とか、胸のふくらみ的にも適していそうである。

 髪も赤色にすこし染められていた。綺麗系の女子学生。背はそこそこ高くすらっとしている。

「えと、自分は新入生だけど、もしや君も?」

 由鷹はパタンと読んでいた小説をたたんだ。しおりもちゃんと読んでいたところへ滑り込ませた。

「うん」

「よかったー! 君、妙に大人しくてわからなかったよー。自分も一人なんだよね」

 由鷹はあらかた理解した。

 この子もそれなりの高校は出たが、上とか同学年の繋がりはないな。ダブってもなさそう。

「ここ地元というか……。東京の高校ではあったんだけどそんなに知り合いもいなくてさ」

「うん。僕も出身は埼玉だよ。一応」

 よし! と、その女子学生はガッツポーズをした。行動が大きめ。声も大きめ。態度もそれなりに。胸については、野暮である。

「自分は、黒江 りお。サッカーやってた!」

 またまた面倒な輩に好かれやすいのか。由鷹自身も面倒なことが嫌いな割には面倒な奴だが。

「僕は……」

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