第6話 閑話休題・とある男子の過去
由鷹は埼玉の中高一貫校を卒業している。
彼は元から要領がよい。
器量もそこそこにはよい。相手をうまくかわす能力についても記述済みだ。彼の思考回路は、
「相手を十二分に観察して理解したい。わかりあえなくとも理解する努力はしたい。相手に合わせたい。他の人の幸せをお祈り続ける」
控えめに申してお人好しである。
彼から相手を遠ざけることはまずない。
これまでも、これからもなさそうである。彼はそう思っている。
いくらスルースキルがあるとは、いえ由鷹もまた人間。相談内容にも辟易することも多かった。彼の六年間通うはめになった男子校でも周りは大人しい学友が集った。
由鷹は、マイペース過ぎるきらいがあるのには念を押して言わざるを得ない。
彼から人に話しかけることはほとんどなかったが、彼の周りには、やはり人が多かった。休み時間には、由鷹は小説を読んでいたが、話しかけられることのほうが多かった。
優しい努力家の子たちばかりが由鷹の周りに休み時間は来ていた。
親身になって彼らの相談を聴いた。
由鷹が丁寧に拝聴したうえで、提案をしたとしても、ほとんど相手は逆の行動をして挙げ句、空回って失敗していた。
由鷹の伝えたいことも極力伝えたし、言い方にも気を配った。彼はことメールみたいな文面でのコミュニケーションは嫌いだった。小説は読む、執筆もかなりしているくせに。不器用な奴である。
口頭で優しく遠回しに伝えた。相手の話していた内容とも合っていた、と彼は思う。相談相手からの情報量が少な過ぎるのである。小さな情報から結論を導き出す能力も、彼には備わっていた。
相談相手が耐えられなくなり、教諭陣に話が伝わることもあった。
教諭陣のおっしゃったありがたいお言葉たちは、由鷹が既に何度も伝えた内容か、彼自身も考えてはいたが伝え方について取り扱いが難しく保留していた内容ばかりであった。
ほぼ全部の相談がこういうエンディングを迎えた。
彼は困った。
相談してくれた相手も不幸になった。不登校になった子も一人だけいた。
彼は悲しんだ。
誰かの前で泣くことはなかったし勉強のやる気として消化していた。
彼の休日は友達とは合わせずに、ほとんど小説を読むか書くか。詰まるところ長時間の勉強につぎ込んでいた。
定期考査の結果は一番上。そこしか彼の名前を見ることはなかった。
おべっかではないが、とてつもなくよすぎた。彼がこの大学に入学できた要因である。地頭もいいのに、努力まで継続していればこうなるものだ。
彼も、また難しい人生を送ってきた。
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