第5話 オリテ前のやりとり

 由鷹と犬内が渋谷に到着した頃には十四時をとうに回っていた。

 大勢の人が思い思いのことをして先を急いでいた。仕事へ向かうリクルート姿の者。たまの休日からなのか普段着というには、いささかきらきらとした服装の者。外国人観光客もいる。

 犬内はハチ公を物珍しげにして眺めている。初めて来たようなそぶりに由鷹は疑問に思う。犬内のような明るいやつなら、いくら北関東出身でもここらにも来るはずだ、という立場だ。

「なんか腹が減らね?」

「うん。お昼過ぎたね」

 よくあるファストフード店でそれなりのセットものを購入。ふにゃふにゃとしたポテトを頬張りながら二人は歩みを進める。ハンバーガーと飲み物も少しずつ消費する。

「すげえ人だらけだなあ! あの交差点も! テレビで見る見る!」

「ここから神泉駅を通っていけばいいと思う」

「歩くとどんくらい?」

「知らない。すぐだよすぐ。電車は混んでそうだ。お金もかかる」

「俺も一人暮らしで金ないんだよな……」

 双方とも同意見。

 互いにうんうん、とうなずく。満員電車に押し込まれた上で運賃まで発生するのには気が進まない。大多数の都会の人間がそうであろう。

 神泉駅経由のキャンパスへの道のりは平坦だった。坂はあることにはある。

 二人の会話はまた犬内中心で展開する。

 歩き方も犬内はせかせかと、由鷹はゆっくりと。歩幅についても前者のほうが広く取っていた。二人は結構異なるタイプではある。

 大学の最寄り駅に到着する。

 他の新入生たちはほとんど集まっていた。二人は最後のほうになってしまったようだ。

「オリテの教室別々っぽいな……」

「そうだね。連絡先交換しよ」

 互いにスマホを取り出す。

 ここら辺は互いにスムーズ。

 由鷹は、犬内がそれなりに交友関係が広そうだと感じる。女性関係も得意分野だろう。

「じゃ! また!」

「うん。また。気づいたら連絡する」

「俺からするわ!」

 犬内は振り返らず教室のほうへ早歩きで行ってしまった。由鷹はただただその大きな後ろ姿を見守る。

「まーたやっかいな輩に当たったなあ」

 彼らのこれからが大変そうである。

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