第3話 式の終わり
式が終わり、由鷹たち新入生は会場からぞろぞろ出て行く。武道館の扉の前にはたくさんの有象無象。
由鷹が長谷川さんに向けてLINEで送ろうとしてしまうのを自制していたところ、周りの新入生たちの間では、彼女についての話題で持ち切りだった。
そこら辺の男どもがしきりに彼女を持ち上げていた。プライドの高そうな輩は面白くなさそうに舌打ちすらしている始末である。
ああ、なるほどね……。由鷹は、いろいろとお察しする。彼女も彼女なりの気苦労があるのだろう。ああいう格好もするだろうなあ……。
由鷹は人混みの中をうまくかいくぐりつつ、スマホでラインを確認する。受信物はない。便りがないのはなんとやら。
何かにぶつかった。由鷹がぶつかるのはめずらしい。謝るためにぶつかった人のほうを一瞥する。
すらっとした高身長の男子学生が右手を挙げていた。由鷹は不思議に思う。
「大丈夫です?」
その男子学生は由鷹に尋ねる。
「大丈夫ですよ」
「あなたも一年でしょう? 俺も一年だからタメ語でいいっすか? 浪人はしてないですよね!」
「かまわないですよ」
ここで浪人云々のようなセンシティブなものを出すのはどうなのかと思うが、指摘するのもあまりよくない。由鷹は逡巡する。
一旦間を置いた。
沈黙の後、男子学生はネクタイを緩めて一息ついた。彼の大きな胸板の中にある肺から大きな息を吐き出す。
「俺、どうもこういう式典って苦手なんだよね」
「うん。わかる」
「これからキャンパスまで移動っしょ? 一緒に行こうぜ」
「いいよ。埼玉の出だから一応ここら辺も知ってる」
男子学生はうれしそうにはにかんだ。大きく開かれた口からは白い歯がちらつく。妙に馴れ馴れしいやつだ。
「よかった! 俺は犬内 巧。栃木から。一人じゃ不安でさ!」
「僕は……」
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