第2話 素晴らしい演説

 式、みたいな大それた冠の付けられた催し物は総じて長いものである。

 しかも知り合いのまったくいないアウェーの場だとそれなりに。こういったものは話半分に聴いて休めというのは、由鷹も経験則から知っていて実行していた。

 彼も埼玉からはるばる東京まで来ていた人間なので、眠くもなる。船も漕ぎたくもなる。

 その新入生代表とやらの女子学生が壇上に登ったときにも意識はしてなかった。その女子学生はめがねも帽子もしていなかったためだ。

 黒髪長髪が肩下まで伸びていた。

 おおよそ先ほどまでのあの子とは違っていた。

 女子学生は、顔は長谷川 澪、本人であった。

 行動や仕草が違う。同定が困難である。人間をよく見ている由鷹でさえもすぐにわからずにいた。

 声も出会ったあの頃より力強く、ひとつひとつの動作にキレを感じた。日本舞踊? と考え込むほど。

 話している内容も素晴らしいのだろう。入ってこない。

 初対面であれば素晴らしいと褒めちぎるか、終えたときにスタンディングオベーションをしていたであろう。

 彼女のスピーチは一瞬だった。

 長い時間は取っていたとは思う。

 残るのは疑問のみ。

 いったい彼女は——何者なのだろう。

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