第11話 杜城生徒会長と初瀬峰
厳かな雰囲気の中、入学式は
「続いて、在校生歓迎の挨拶」
進行役の先生がそう言うと、我らが生徒会長の
すると、彼女の姿を見た新入生たちがザワつき始めた。
まぁ、そうかもな。あんな生徒会長はそういないと思う。
真面目で堅物のイメージがある生徒会長とは真逆の、見た目ギャルだもん。
いや、寧ろ美少女過ぎることに驚いてザワついたのかもしれない。
まぁ兎も角、色んな意味で流石は会長だよなぁ、とは思う。
そうして、杜城会長は講演台の前まで来ると、こちらへと一礼して、何も読まずに挨拶を述べ始めた。
「桜舞い、暖かな日差しが降り注ぐ今日の良き日。新たなステージを迎えた新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。在校生一同、心より歓迎するとともに、皆さんと学校生活を送れることを楽しみにしておりました」
会長の口から紡がれる言葉と見た目のギャップに、一年生たちは身動き一つせずに見つめている。
てか、すでに羨望の眼差しになっているんじゃないか?
そんな真面目モードの会長の挨拶を聞きながら、俺の意識は……どんどん……
◇◆◇◆
「──御藤くん?」
ん? なんだ? なんか揺れてないか? 地震か?
いや、もしかして俺だけ揺れてる!?
「御藤くん、起きて。始業式も終わっちゃうよ?」
「え? あれ……?」
俺は隣にいる初瀬峰に体を揺さぶられて目が覚めた。どうやら、会長の挨拶の途中から寝てしまっていたらしい。
すでに、新入生は体育館から退場して、入学式の後の始業式も終わりを迎えているらしく、先生がこの後は生徒会からの連絡と片付けがあるとか言っている。
「ん~、悪いな、初瀬峰。ナデコ……あ、撫子の事なんだけどさ、朝早くからあいつに叩き起こされて、ちょい睡眠不足なんだ」
「え? 朝早くに?」
「そう、五時に」
「お坊さん?」
「俺も似た様なツッコミをしたよ。んで、なんかナデコのヤツ、自分の制服姿を俺に見せたかったんだぁとか、言ってさ」
「ふふっ。撫子ちゃんは、お兄ちゃんが大好きなんだね」
「まぁ、悪い気はしないけどさ。困ったもんだよ」
そうして、俺は周りに迷惑をかけない様に座ったまま小さく伸びをする。
「と、言う事で連絡事項は以上だ。それじゃ、これで解散。生徒会長、後は宜しく」
進行役の先生の声を合図に、体育館の壁側に並んでいた教師たちはぞろぞろと職員室へ撤退を始める。
それと同時に、杜城会長が再びステージ上へと登壇した。
「は~い♡ 改めてみんな、おはろー♡」
体育館に残った生徒達に向かって、杜城会長は手を振りながら元気に挨拶をした。
それに対して、生徒一同『会長おはよー!』と元気に返している。
俺の左隣にいる太賀も、大きな声で『ラブラブ♡ 会長ー!』などと叫んでいる。
いや、まぁ、別にいいけどさ……
「入学式、みんなの協力のおかげで、新入生を気持ち良く迎える事が出来たよ! お手伝いありがとねぇ♡」
『うぉぉぉぉ会長ぉぉぉぉ!』と怒号にも似た様な声が体育館に響き渡った。
そんな『アイドルのライブ会場かよ』とツッコミたくなる様な異常な状況を、俺は黙って見守り続ける。
どうにも、この変なノリについて行ける気がしない。正直、しんどい。
「は~い、みんな静かにぃ、あーしに注目! んじゃ、一学期の主な行事予定のお知らせとぉ、それからこの後やる、椅子や机の片付けの説明するから、ちゃ~んと漏らさずに聞いててよぉ」
『うぇぇぇぇぇぇい!』と男子生徒たちはノリノリで返事を返していた。
ホントに聞く気あんのかよ、コイツら……
◇◆◇◆
生徒会長の指示の元、流れる様に作業は進み、体育館に並べられていた椅子と長机の片づけはあっという間に終了した。
「は~い、みんなお疲れぇ~! 後は教室に戻ってホームルームだけだよぉ! 気を付けて帰ってねぇ!」
杜城会長は、キラッキラの笑顔で手伝ってくれた生徒達みんなに手を振る。
それに対して生徒達も『また明日~』とか『いつでも手伝うよ~』とか言いながら手を振り返していた。
俺はその状況を遠目に見ながら、初瀬峰が言いかけた言葉を思い出していた。
『会長ってさ、あんまりいい噂を聞かな……』
恐らく、その後は『い』と付くと思われる。
初瀬峰が言おうとしてた事って……一体何だったのだろうか。
その事が、喉に刺さった魚の骨みたいに、俺の中でずっと引っかかっていた。
「ねぇ、御藤くん。体育館の片付けも終わったし、そろそろ教室に戻ろうよ」
ボーッとしていた俺は、隣にいた初瀬峰に声をかけられて我に返った。
「あ、あぁ、うん、そうだな……って、あれ、太賀は?」
あの賑やかし担当を探そうと、俺は辺りを見回した。
「嶋立くん? 彼ならさっき『撫子ちゃん以外の新入生女子生徒チェックやで~』とか言ってどっか行っちゃったけど」
「……何やってんだよ、アイツは」
太賀の女子好きにも困ったもんだ、と呆れかえる。あいつは出会った時からそんな感じで、女子と聞けばホント見境が無い。
俺も女子には興味があるし好きだけど、そこまでは……
「ん? なんだ?」
なにやら俺の後方から、ドドドっと凄い勢いで誰かが走って来る足音が聞こえた。
その足音に俺は振り返ろうとしたのだが……時、すでに遅し。
「おつかれ~、ショウくん! 春休み中、会えなくて寂しかったよぉ」
と朗らかな声と共に、俺の背中にズドン! と言う、凶悪な衝撃が襲ってきた。
「ぐっはぁ! ごほ、ごほっ!」
それと同時に、バラの香りがフワッと漂ってくる。
この香りを、俺は知っている。彼女の大好きな、甘過ぎない大人なバラの香水。
「いっでぇぇぇぇぇ……」
「アハッ♡ 春休み中、元気にしてた? ショウくん♡」
走って来た人物の正体は、我らが美少女生徒会長、
ちなみに彼女が呼んでいる『ショウくん』と言うのは……俺のことである。
「いやいや、杜城会長。あまりの衝撃に脊髄がやられるかと思ったんですけど」
「まったまたぁ、ショウくんはそんなヤワじゃないっしょ?」
「勉強しかしてないんで、ヤワヤワですよ」
「アハッ、ごめんねぇ。勢いつけ過ぎちゃったかもぉ」
そう言って杜城会長は俺の首に回していた手を放してくれたが、すぐに右腕に抱き着いてきた。
「離れてはくれないんですね……」
「ったり前だよねぇ♡」
彼女の良い香りも漂ってくるし、立派に育ったデカい胸は当たってくるし、俺は杜城会長との距離にドキドキしていた。
……だが、そんな会長との距離よりも気になるのが、左隣からヒシヒシと感じる凶悪なまでの
俺は恐る恐る、隣にいる初瀬峰へと視線を移した。すると彼女は、表現し難い形相で会長を睨みつけていた。
鬼かな? いや……般若だな。
「杜城会長。御藤くんとの距離が、近過ぎると思うんですけど?」
俺には、なんか真っ黒なオーラを纏った初瀬峰の背後に『ゴゴゴゴゴゴ……』みたいな擬音が付いている様に……見える。
そんな初瀬峰のプレッシャーを、杜城会長は暖簾の如くひらっと受け流し、涼し気な表情で俺の顔を覗きこんできた。
「ま? これぐらい普通だと思うけど。 ね? ショウくん?」
「いや、俺に振られてもすんごい困るんですけど。でも、なんて言うか、めちゃくちゃ近いっすよ……これは、恋人同士だけがとって良い距離だと思います」
俺の返事に、会長は無邪気な笑顔で『アハハ~』と笑い返してくる。
「そんな事よりもさ、ショウくん。良ければ今日一緒に帰らない? それで、そのままデートとかしない? ね♡」
会長の発言と態度に、初瀬峰の顔はさらに険しいモノへと変わっていく。
「杜城会長、もう一度言います。御藤くんから離れて下さい」
学校内でこういう事をするのが許せないのは分かるけどさ……こ、怖いっすよ、初瀬峰さん。
「やぁーだぁ、離れな~い。春休みはショウくんに会えないのを、い~っぱい我慢したんだから、離れないよぉ」
杜城会長は、抱き着いた腕に更に力を込めて、駄々っ子みたいに『ヤダヤダ』と連呼している。
「そんなの知りません! いいから離れて下さい!」
「それこそ知らなぁ~い。ユツキんこそ、生徒会長様のあーしに命令しないでぇ」
「ユ、ユツキん……そ、その呼び方やめてください! なんか恥ずかしいです!」
「えぇ~、かぁいくない? ユツキんって」
「う、ぐっ! か、可愛くなんかないです! イヤです! ユツキちゃんって呼んでたじゃないですか!」
初瀬峰は眉を吊り上げながら、必死に否定していた。
俺を挟んで、美少女二人が言い争っている。
そんな理解し難い状況の中、ステージ横の扉から顔を出した男子生徒が、空気など知った事ではないと言わんばかりに、杜城会長を呼んだ。
「杜城会長~! さっきの件で、今原先生が呼んでまーす!」
「えぇ~、またぁ? はぁ~……おーけーおーけー。分かったぁ、今行くぅ!」
そう返事を返すと、杜城会長は俺の腕からパッと離れた。
今までそこにあった温もりも感触も無くなって、腕にヒヤッとした空気を感じる。
……少々、寂しい。
「と言うことで、ショウくんごめんねぇ。また今度一緒に帰ろうね♡」
会長は俺へと手を振りながら、ステージへと駆けだした。
「え? あ、はい。別に一緒に帰るのはいいですけど……」
「絶対だよ! 約束したかんねぇ~♡」
そのまま手を振りながら、会長はくるりと反転してステージ横の扉へと消えていく。その反動でスカートが翻り
俺は自分の頭をポカっと叩いた後、とりあえず教室へ戻ろうと考えた。
「初瀬峰、とにかく教室に戻ろう……ぜ?」
「むぅ~……」
初瀬峰はなにやら唸りながら、未だに不機嫌な表情で俺を見ていた。
睨みつけるって言うか、ジト目と言うか。
……でも、そんな怒った初瀬峰もすごく可愛かった。
などと思っていると、彼女は急に俺の手を掴んで、引っ張る様に歩き出した。
「ちょ、ちょい、え? 初瀬峰さん?!」
俺の左手に、じんわりと彼女の熱が伝わってくる。
「は、初瀬峰、なんか怒ってる?」
「……怒ってない」
そう呟いた彼女にされるがまま、俺は手を引かれて教室へと戻っていった。
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