白の山

私は山の中、迷っている。どうして山にいるのか、目的もわからない。

山の中で木は多いけど、太陽は高く辺りは明るい。

ただ、足を怪我をしているようで、思うように歩くことが出来ない。

なので、匍匐前進のような姿勢で獣道を進む。

最初はのそのそゆっくりと進んでいたのが、自分が動物のように思えてきて自然と進むのが早くなる。

ふと、足の痛みがないことに気が付く。怪我が治ったんだと思った。

痛くないならと自然に自分の足で踏みしめ、獣道を進む。


しばらく歩くとひらけた崖のような場所に出た。

目の前には、空を突き破りそうな程大きい山が二座、聳え立っていた。

山は雪が積もっているみたいに白く、太陽の光を受けてキラキラと輝くように反射していた。

あまりにも壮大で美しい景色に息を忘れて見入ってしまった。


どれだけ眺めただろうか。

ふいに足に痛みが走り、急激な疲労感、寒気に襲われた。

怪我が治ったというのは思い込みだったんだと知る。

私はその場で倒れ込んだ。


どこかわからない山に怪我をして1人でいるなんて、普通なら恐怖や不安に苛まれていただろう。

けれど、そんなちっぽけなものは襲ってくることはなかった。

私に沸いて出てくる感情は、言い表せないような幸福感だった。

そして、その幸福感がもたらすものは、死への渇望だった。

今の私には後悔も苦しみも悩みもない。

この幸せの絶頂で、この景色の中で、最期の時を迎えたい。


景色を瞼の裏に焼き付けようと、私は瞼を閉じようとした。

なぜか涙が溢れてくる。

滲む景色の中、山は一層輝きを強くし、白の眩しさが増す。

幸福感の中、瞼は閉じ、景色は消えていた。


瞼の裏に焼き付いて残ったのは、あの白の眩しさだけだった。

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