夢落ち物語

ジプソス

紅葉

私の目の前に赤く色づいた紅葉の木が1本、生えている。

他に見えるのは紅葉の後ろに広がる青い空だけだった。

私はその景色を見ることしか出来なかった。


青い空は、やがて陽が落ちはじめたようで、紅葉と同じ赤に変わった。

その景色をみて綺麗だと、この瞬間をずっと見ていたいと思った。

けれど、その時間は長くは続かず、ゆっくりと進み、太陽は完全に沈み、夜が訪れる。


暗い夜、紅葉は影のように闇に溶けてほとんど見えなくなった。

空には星が広がっており、星がない場所が紅葉なのだと思う。

雲がなければ月明かりで紅葉がいるのが微かに見える。

風が吹けば、葉を揺らす紅葉の音が聞こえる。


暗い夜もだんだん青白くなり、また陽が登り始める。

徐々に色を取り戻す紅葉を私は見ている。

ゆらゆら葉を揺らせば、夜の音はやっぱり紅葉だったと安心する。


陽が登り、朝が来る。

陽が沈み、夜が来る。

その間に私は紅葉の色に、景色に、心が動く。

そんなことを何日も、繰り返している。


何度目かわからない朝が来る。

紅葉の赤は相変わらず綺麗で、前より赤くなっているようにも思える。

ひらひらと揺れ落ちる葉もとても綺麗だった。

でも、寂しさを感じるようになっていた。

初めて紅葉を意識した日より、葉が減っているから。

終わりが近付いている気がするから。


それでも時間は進む。

前よりも早く時間が進む。

世界が早送りにされているように、葉の舞う速度さえ早くなっている。


そして、何度目かわからない夕方が訪れる。


その日の夕方は初めての夕方を思い出すようだった。

夕日が止まり、紅い空が広がった。

あなたの赤を強調するようだった。

忘れたくない。

強く願わずにいられない美しい景色だった。

夕日を直視したような眩しさなのに、瞼を閉じる事も、視線を逸らすことも出来ない程。


そして、時は再び動き出した。

真っ赤な紅葉と真っ赤の夕日を眺めている。

風が吹き、あなたの葉が揺れる。

多くの葉がひらひらと舞い散る。

強めの風が吹くと、ひらひらと舞う葉が勢いを増す。

何枚かが私をめがけて飛んできたと思えば、私の視界を覆うように、視界を塞ぐ。

真っ赤な視界、あなたの色だ。


私の視界は赤と白な光の点滅を繰り返す。

やがて完全に真っ白な光に変わり、終わりを迎えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る