女神候補生とヤバい相棒(KAC2024)

ファスナー

女神候補生とヤバい相棒

彼女には三分以内にやらなければならないことがあった。


「ふざっけんじゃないわよ、あんのアマ。

 最初っからそれが狙いだったってわけね。

 いい度胸じゃない。この姫柊ひめらぎゆかり様を嘗めんじゃないわよ。」


姫柊と名乗る彼女はブチギレながらもコンソールを操作する手は止めない。

縦ロールにセットしたブロンドの髪を振り乱しながら、空中に投影された複数のウィンドウを目を皿にして注視した。


『エントリー受付終了まで残り2分です。

 女神候補生の皆さま、今一度エントリーが完了しているかご確認ください。

 今回エントリーされなかった方は候補生から外れて頂くことになりますのでご注意ください。』


「言われなくても分かってんのよ。」

イライラが募る姫柊は聞こえてくるアナウンスに八つ当たりしながら、ウィンドウに表示された大量の人物プロフィールを高速でチェックしていく。


「チッ、やっぱりダメね。

 めぼしい魂は他の候補生に軒並み押さえられてるわ。」

姫柊はぁっとため息をついて天を仰ぐ。

ふと浮かんできたのは、勝ち誇ったような笑みを浮かべたシルバーヘアで内巻きボブが特徴的な女性。それは自分をハメた憎き女だった。


逢坂玲奈おうさかれいな

同じ女神候補生で切磋琢磨してきたよき好敵手ライバルにして、今回の最終選考のエントリーで姫柊を窮地に追い込んだ元凶。


「なめんじゃないわよ。この私がこの程度で諦めてたまるもんですか。」

姫柊はぎりっと奥歯を噛みしめてウィンドウに向き直った。


 ■■■


ことの発端は今から1週間前。

今年の女神選考会を取り仕切るレキウス神に女神候補生一同が招集された。


「今年の最終選考会は内容を一新する。

 今まで最終選考の試験内容は幅広い知識を試す筆記試験だったが、実務に沿った実地試験に変更する。

 というのも、近年、転生業務でのやらかしが目立つようになってきたからだ。

 原因は一部の女神の能力不足。

 魂を見極め適切な役割を与える能力が足りていない者が転生業務を行った結果、いくつかの世界で乱れが生じてしまった。

 これから新しく女神になる者には、実地訓練でその能力の有無を確認する。


 さて、試験について説明しよう。

 最終選考会を受けるため、女神候補生の君たちは【輪廻転生リスト】から相棒バディとなる魂を1人見つけ、相棒登録してエントリーしてもらう。

 登録した相棒を異世界に転生させて、その者が世界にどう影響するかを試すのが試験内容となる。

 その中で好成績を修めた上位3名と、最も世界に影響を与えた1名を女神として認定する。

 

 今回の試験での注意事項は3点。

 1つ目は相棒には試験の事を伏せること。転生業務の一環だと思ってもらいたい。


 2つ目は相棒は複数の候補者が1人の魂を選択することはできない。対象が被った場合は先にエントリーした方が優先される。重複エントリーは発覚次第、候補生に通知させてもらう。

 通知された候補生は未エントリー扱いになるので注意してくれ。


 3つ目はエントリーの締め切りだ。

 エントリーの受付は明日から一週間後の17時ちょうどまで。ただし、締め切りを過ぎるとエントリーは出来ない。そして、未エントリーの女神候補生は候補生リストから外れてもらうことになる。


 もう大体の者が理解していると思うが、相棒を見つけ出すところから既に試験は始まっているからな、皆の検討を祈る。

 なお、この試験に関する質問は一切受け付けない。以上。」


レキウス神の言葉に女神候補生たちはザワザワと動揺した。

彼女たちは女神になるために様々な試験をクリアして候補生に登り詰めたエリート。

そんな彼女たちが最終選考にエントリーしなければ候補生から落ちるというのだ。


動揺がひろがる中で、逢坂は笑っていた。

その笑みが気になった姫柊は彼女に尋ねていた。


「貴女、余裕なのね。」


「フフフ、まぁある意味そうかもしれないわね。

 そういう貴女も落ち着いてるじゃない?」


「まぁね。既に候補は見つけているもの。」


「あら、奇遇ね。

 じゃあお互いに見せあわない?」


過去の試験の中で【輪廻転生リスト】を閲覧する機会があり、その時に姫柊は転生シミュレーションを済ませており、それは逢坂も同様だった。

だから2人は互いに端末を起動させて【輪廻転生リスト】の候補者を見せあった。


「逢坂さんは流石ね。魂が澄んでレベルがかなり高いなんて。

 勇者系主人公に転生させれば有望になるわね。」


「そういう姫柊さんもすごいわ。魂の濃度がずば抜けてるもの。

 根性系主人公として転生させれば高得点が得られそう…。」


一通り互いの候補者を褒めあったところでふと思い出したように逢坂がつぶやいた。


「それにしても流石は流石はレキウス様。

 面白い趣向を考えたものよね。」


「そうかしら?

 こんな事したら最終選考が荒れるだけだと思うのだけど。」


「それがいいんじゃないの。改革には痛みが伴うものよ。

 それは人間界を見てきた私たちが一番よく知ってるじゃない。

 そして、改革を乗り越えた者は真に選ばれし者になるわけ。

 ふふ、腕がなるわね。

 それじゃ、お互いに頑張りましょうね。」

恍惚に笑う逢坂は去っていった。


姫柊は逢坂に違和感を覚えていたものの、単なる気のせいだと無視していた。

それが1つの分岐点だった。


■■■



エントリー最終日、姫柊は絶句していた。


締め切りの1時間前にエントリー却下の通知を受け取ったからだ。

姫柊は即座に女神選考会事務局に問い合わせた。


「ですから、通知にある通りです。

 現時点で姫柊様は未エントリーとなっています。」


「ど、どうしてよ?

 エントリー初日に登録したのよ。」


「はい、確かにエントリーは受け付けました。

 ですが、登録された魂は

 つまり【輪廻転生リスト】から外れたことになるため未エントリーとなります。」


事務員の説明によると、候補生がエントリー登録した魂であっても女神が転生業務で指定することができてしまう。

そしてその転生を行ったのは女神、逢坂奈々なな。なんと、ライバルである逢坂玲奈の姉であった。


(あの日、あのクソ女が薄気味悪い笑みを浮かべていた理由がわかったわ。

 いくら候補生がエントリーしようが、女神が転生を行って【輪廻転生リスト】から外れてしまえば無意味。

 エントリーを受付ても相棒がいなくなれば未エントリー扱いになるというルールを悪用して私を嵌めたってわけね。

 それもエントリー受付時間のギリギリを狙って。

 今から適当な魂を見繕ってエントリーだけ済ますことは出来るけど…。

 プライドが許さないわ。やるからにはギリギリまで見極めるわよ。)


こうして、姫柊は残り時間わずかという中で再び動き出した。


■■■


コンコンッ


「失礼いたします。

 最終選考会のエントリーが完了しましたので報告いたします。」


「うむ、確認しよう。」

レキウスは事務員が持ってきた端末を操作して空中にウィンドウを投影する。

すると、エントリーした女神候補生とその相棒が一覧表示されていく。


「うーむ、平凡であるなぁ」

そう呟いていたレキウスだったがある2人の候補者のところで目をとめた。


女神候補生:逢坂玲奈 相棒:カロ=ファラン

事務局補足:

カロ=ファランは96惑星のカロ家の次男に生まれで、領地の発展に尽力。

清廉で潔白で領民からも愛された。

魂純度は93、魂レベルは89。正しく成長すれば、後2回の転生で神に至る逸材。



女神候補生:姫柊ゆかり 相棒:フィルシード=ストーム

事務局補足:

フィルシード=ストームは51惑星のフィルシード家の長男に生まれた悪党。

利己主義で守るべき領民を蔑ろに扱った結果、廃嫡されて魔獣に殺された。

魂純度は-193、魂レベルは-78。このままでは悪魔が目をつける逸材。



「まさか神に至る逸材と悪魔に至る逸材がいるとはな。

 なかなか面白い候補生たちがいるものだ。

 これからが楽しみだな。」

レキウスは楽しそうに笑った。


しかし、神であるレキウスにも未来を見通すことはできない。

だからこの時点ではまだ誰もわかっていなかった。


彼女たちの選んだ相棒達が神界全体を巻き込んだ大事件を引き起こすことになるとは…。



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