【KAC20241】姉ちゃんが家に着くまでに僕がすること
一帆
姉ちゃんが家につくまでに僕がすること
僕には3分以内にやらなければならないことがあった。
それは、今、エントランスから家に歩いている姉ちゃんに、僕が姉ちゃんの服を着て、メイクをしていたことをバレないようにすること。この家のヒエラルキーは姉ちゃんがトップで、僕が底辺。いつも姉ちゃんの顔色を伺って暮らしてる。そういえばわかってくれるよね?
じゃ、なんで、姉ちゃんの服をきたかって?
姉ちゃんと僕は、顔はそっくりなんだけど、性格が真逆。姉ちゃんは明るいし、いるだけで華やかになる。強引でわがままで、怒りっぽい、まさしく女王様。それに比べ、僕は家からも出られないほどの陰キャ。
だから、姉ちゃんみたいな恰好をすれば、僕は自分を変えられるかもって思ったなんて言っても、姉ちゃん怒るよなぁ……。絶対に……。
僕は姉ちゃんの服やメイク道具が転がっているリビングで盛大にため息をついた。
「なんで、4時に帰ってくるかなぁ? 友達とお茶してくるから、6時っていってたじゃん!!」
がしがしっと頭をかくと、髪を留めていたピンがぷちぷちっと飛ぶ。
「でも、姉ちゃんがカギを忘れていてくれて助かった。よし! なんとかしよう!」
エントランスから姉ちゃんが歩いて家につくまでが約3分。
「とりあえず、着てる服を脱がなきゃだよな」
僕は慌てて、オフショルダーのマーメードワンピースのひもをほどく。布が裂ける音がした気もしないでもないけど、今はそんな余裕はない。
「だいたい、この服、きつすぎ。あちこち、ひもありすぎ!!」
さっきまで、宝石みたいに輝いていた服に文句をつける。僕が文句を言ったからか、僕が慌てているからか、ひもがほどけない。とんだり跳ねたりしながら、なんとか服を脱ぐ。ストッキングは後回しだ。
「こっちは急いでいるっていうのに……」
やっとのことで、服から解放された僕はリビングを見まわした。あと、2分。
「散らばっている服とメイク道具か。メイク道具は隠しておくしかないな。服をもとにもどす時間は………ある!!」
散らばっているものをがさがさがさっとメイクボックスに入れると、テーブルの下に隠した。それから、姉ちゃんの服をかき集めて、小走りで姉ちゃんの部屋に向かった。ハンガーラックに服をかける。
「よし、あと1分! あとは……、スウェットを探して……、あ!! メイク!!!」
メイクした顔をさらしたら、僕がメイク道具を使ったのがバレる。僕は慌てて、姉ちゃんの部屋の先にある洗面所へ駆け込む。
唇からは赤いグロスがはみ出し、チークはぬりすぎて頬にピンク色の丸ができている。
「メイク落としってどれだよ?? 姉ちゃんっていつもなんかで拭いていたよな? わかんねー」
仕方なく、洗面所にかかっていたタオルを濡らして、顔をぎゅっぎゅっとふく。タオルにファンデーションやらチークやらついたけど、しったこっちゃない。あとでこっそり洗濯機に放り込めば、証拠隠滅だ。僕が顔を拭いていたら、ピンポーンと玄関ベルがなった。
「ただい……、 シュウ!! なに、その顔! なんで、パンツの上にストッキングだけなの???」
◇
結局、僕が姉ちゃんの服を着ていたのはバレた。バレないはずはなかったのだ。
僕は怒られるのを覚悟で姉ちゃんの服を着た理由を話した。姉ちゃんはひとしきり笑い転げたけど、僕のことを怒らなかった。そのかわり、洋服の着方とメイクの仕方を教えてくれた。なんとなく、姉ちゃんとの距離が縮まったような気がする。
おしまい
【KAC20241】姉ちゃんが家に着くまでに僕がすること 一帆 @kazuho21
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます