第3話 クルージングは危険がいっぱい その5 化tion。

〈瑚姫〉とマーマンが対峙していた頃、船倉では二人の人物が歩いていた。


「我輩、水物は苦手だ。」

「知ってるよ。だからこうして結界を出してるじゃないか。」

「この霧か?」

「霧に見えるだけだ。しかも身を隠してくれる優れ物だぞ?」

[単に見えづらいだけだろ。」

「違うぞ?光学迷彩みたいなもんだ。」


「我輩、霧も苦手だ。」

「よく言う。体を霧に変えられるくせに。似た様のモンだろ。」

「違うぞ?」


伯爵と呼ばれたのは、いかにも欧州の紳士風な人物。

渋いイケメンだ。

方や一緒に歩いているのは、どう見てもニホンの青年だ。

昨夜、デッキでビール片手に海を眺めていた人物。


そう、この青年の名は〈安倍孝明〉と云う。

ある目的の為に乗船したのだが、見知った少女達を見かけた。

〈水飴神社〉の一件で知り合った少女達だ。

偶然ではあるが、まさか〈ゴスロリ♡5〉も乗っているとは思っていなかったので、ちょっと困惑している。


「……、縁があるのか……?」

「なにブツブツ言ってる。」

「いや、ちょっと知人を見かけたものでね。」

「敵か?」

「違うと思う。いや?どうなんだろう?」

「どっちなんだ?」


「伯爵が見つかったら、攻撃されるかも知れないな。」

「何を言う!我輩ほど品行方正な紳士はいないぞ?失礼なやつだ!」

「それが通じればいいけどね……。」


「それより、〈アイツ〉は何処に居るんだ?」

「多分、一等船室あたりに閉籠もっている。」

「気配を感じないが?」

「向こうも結界を張ってるんだろう。」


「我輩が荷物扱いなのに、〈アイツ〉は一等船室か!ニセモノのくせに!」

「ぼやくな、やっと尻尾を掴んだんだ。船の上なら〈アイツ〉も逃げられん。終わりにしよう。」

「〈アイツ〉を始末すれば、我輩の名誉も回復される。」

「いや、それは別問題だと思うぞ?」


一方、こちらはデッキの上。

〈瑚姫〉とマーマンが戦っている所に、〈ゴスロリ♡5〉が参戦した。


「お姉さん、大丈夫ですか?」

五人の少女が〈瑚姫〉の下にやって来る。


「あら、おチビちゃん達、私に味方してくれるの?」

〈瑚姫〉は薙刀の構えを解いて腰を下ろし、少女達に問いかける。

わざわざ少女達と同じ目線にするあたり、気配りの人らしい。


「ええっとー、ちょっと迷たんですが、お姉さん角あるし……。」

「えー、〈レッド〉迷ってないじゃん!真っ直ぐ魚さんを吹き飛ばしたよ?」

「モ、〈ピンク〉う、そんなことないよ?考えてるよ?」

本名で呼ぶ事は、止めたらしい。


「お姉さん、あの”魚の人”はなんなんですか?」

「やっぱり妖怪ですの?」


「妖怪……、似た様なものね。〈マーマン〉と云う種族なの。」

今、〈マーマン〉達は〈瑚姫〉と〈ゴスロリ♡5〉を遠巻きにして、様子を伺っている。

彼女たちが思ったより強いので、警戒している様だ。


〈グリーン〉が”魚の人”の人と表したが、その通り、身体つきは人間みたいだが、顔がモロ魚のそれである。

それもサケみたいのから、ウツボみたいなの、エンゼルフイッシュやナポレオンフィッシュみたいなのもいる。

バラエティーに富んでいる、と言わざるを得ない。


腕を組んで観察していた〈ブルー〉は「クマノミはいないね。」とつぶやいた後、「ボク、しばらくお魚は食べなくていいや。」

と言った。


うん。気持ちはわかる。


「お姉さん、その”魚の人”をやっつけるんですか?」

〈レッド〉は”魚の人”で通すらしい。


「いえ、彼等の目的が分かる迄は、追っ払うだけよ。」

「彼等?」

「目的?」


「彼等って、あの、みんな雄なんですか?」

「そうよ、雌は〈マーメイド〉だもの。」

「「「「「ええ~っ!」」」」」


〈ゴスロリ♡5〉はショックを受けた。

まあ、〈マーマン〉と〈マーメイド〉では、見た目に偉い差があるから。


「目的、キャッ!」

遠巻きにしていた〈マーマン〉達が襲って来た。

失礼な事を思っていた事が、ばれたのか?


「ハッ!ハッ!」

襲って来るマーマン達を〈瑚姫〉が薙刀を使って弾き飛ばす。


「どーん!」

「どーん!どーん!どどどどーん!」

〈瑚姫〉の左側に陣取った〈レッド〉が、次から次と火球を飛ばしてマーマンに当てる。

火球なのに当たっても燃えもせず、爆発もしない。

ただマーマンを弾き飛ばす。


「アクア・ハンマー!そしていっぱい!」

〈瑚姫〉の右側に陣取った〈ブルー〉は水球を飛ばす。

こちらも当たったマーマンは弾き飛んだ。


「D・トンネル!」

〈ブラック〉が叫ぶと、マーマンの足元に暗いホールが出現して、そこに踏み込んだマーマンが落ちて行く。

すると、船体の横に同じような暗いホールが出現し、そこからマーマン達が排出される。


だが、結局マーマン達は海に落ちるだけなので、また船に這いあがって来る。

キリがない。

その内、我らが〈ゴスロリ♡5〉の攻撃をすり抜けて、マーマン達が船内に入ろうとした。


だが入れない。

入口付近で見えない壁に阻まれる。


「はい。残念でした。お帰りはあちら、ルフト・シュス!」

〈グリーン〉が船体の入口に空気のバリアーを張っていた。

そして、歯折れないマーマン達を空気の塊をぶつけて飛ばす。

何故技名がドイツ系なのかは不明だ。


勿論、〈ピンク〉も活躍する。

「左!弾幕薄いよ!何やってんの!」


……。


……、えー、活躍する。


「ぴぎゃー!」

「ぴゅー!ぴぎゃうー!」

「うりゅー!」

マーマンが口から何か吐き出した。


「きゃー!」

「いやー!」

やや粘り気がある液体が〈ゴスロリ♡5〉に降りかかる。


「なにこれ?」

ただの海水の様だ。

だが、物凄く生臭い。


「くさぁい!」

「もう!最低!」

怪我は無いが、乙女達には不評の様だ。


次から次と吐き出される海水で、ずぶ濡れになって行く。

残念だが、衣装は透けない。


「ルフト・ヴァント!」

〈グリーン〉がみんなの廻りにバルアーを張る。

「遅くなってごめんね。」


「手伝おうか?」

コゼッタが現れた。

〈グリーン〉のバリアーは、内側からなら開く様だ。


コゼッタは今迄家族の護衛をしていたのだが、どうやら退屈だったらしい。

「お父さん達を守ってなきゃ駄目じゃない!」

「大丈夫だろ?入って来れないんだし。」


「でも……。」

「大丈夫だって、それよりあの魚人共をやっつければいいのか?」

「そうだけど……。」

「任せろ!」


コゼッテは飛び出し、器用にマーマンの間をすり抜けながら攻撃を開始する。

「小銭シュート!」

「小銭ハリケーン!」


実際は小銭では無くコゼッタ専用のメダルなのだが、小銭と違って重みがあるので威力は8倍だ。(当社比)

大怪我はしない迄も、当たれば痛いし、コブになる。


マーマン達は攻撃対象をコゼタに切る替えたが、如何せんすばしっこい。

〈レッド〉〈ブルー〉〈ブラック〉も参戦する。


外の喧騒を他所に、操舵室では怪しいと思われる人物を割り出していた。

メモに何人かの名前と、部屋番号が書いてある。


高校生にも見える小柄な青年は、チラリと窓の外の戦いを確認してからドアに向かう。

相変わらず妖気をはらんだ霧が邪魔で良く見えないが、青年には分かる様だ。


「では、行ってきます。」

「私も……。」

「船長、危険ですから、待っていて下さい。」

物腰は柔らかいが、その眼がはっきりと”邪魔だ”と伝えていた。


ドアを開けると、外には昨日青年と一緒に居た美女が立っていた。

どうやら唯一の出入り口であるドアを守っていたらしい。


二人は手こそ繋がなかったが、寄り添って船内へと降りて行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る