第2話 水飴神社の秘密 その7 終幕。

明けて三日目の朝。

明日は帰る。


〈ゴスロリ♡5〉としての初仕事〈謎の子供失踪事件〉は、思わぬ展開になった。

〈妖怪 小銭小僧〉と、女性の幽霊が絡んでいたのだ。

恐らく、子供達の失踪は小銭小僧の仕業に間違いない。

何の目的で、どういう意味があるのか、事件の真相はまだ謎のままだ。

一回目の調査で引き当てるとは、運がいいのか、悪いのか。


だが、命に係わる程の危険な目にあったにも関わらず、〈ゴスロリ♡5〉の心は挫けていない。

それよりも解決する気満々である。


ホテルのチェックアウトを済ませると、アカネ達は待ち合わせ先の甘味処に移動した。

既にタカアキとコータは来ている。

昨日と違い、タカアキは大きな紙袋を持っていた。


甘味処に入ったなんて、人生初体験であるアカネ達は、興味津々である。

メニューから目が離せない。

それぞれ、注文した食べ物が運ばれてきた。

さっき朝食を終えたばかりだと云うのに、これは別腹と云う事らしい。


タカアキの注文したものに視線が集まる。

「タカアキにいさん。それは?」

モモがツッコンでくれる。


「ジャンボ白玉ぜんざいだよ。」

「どう見てもどんぶりですよね?」

「これは、お腹が求めるのではない!脳が求めるのだ!頭を使った後はブドウ糖の補給が必要なんだ!」

「ホントかなぁ。」


昨日の出来事を微塵に感じさせない、清々しい会話だ。

余程の大物か、余程の馬鹿か。


「さて、これからの事についてう打ち合わせしよう。まず俺から話す。お婆さんの話を聞き直したんだが、色々分かったことがある。」

「お婆さんの話?」


「そう、ゆうべ何回も聞き直した。それで、まず間違っていた事だが……。」

皆タカアキの話に聞き入ってる。


「お婆さんが言うとこの〈みずんなめじんじゃ〉、これを〈水飴神社〉をなまって言ったのだと思っのだが、間違いだった。」

「〈みずんなめ〉とは、〈身ずんな女〉、妊娠した身重の婦人の事を言ってたんだ。」


「ええっ!」

「なんですって?」

「ひょっとして、〈みずんなめ〉が〈みずあめ〉になったと云う事かしら?」

「そうだ。元々は〈身ずんな女神社〉と言ったらしい。」


「やや、赤ちゃんが生まれたのか、生まれなかったのか。どの道、早くに亡くなった。」

「また、妊娠したまま亡くなった婦人もいたと考えられる。そして、不幸な妊娠もあったと。」

「〈みずんなめは、たたんねよう、みずんなめじんじゃさ、やった。〉とは、不幸な婦人が祟りをなさない様に、神社に祀ったと。」


「そうすると、あの女の人の幽霊は……。」

「みずんなめの思念だと思う。そいれも一人二人では無いのだろう。」


「神仏習合の所為か、はたまた都市開発で邪魔になったか、時期は分らないが、七つの地蔵が水飴神社に移動した。」

「七つの地蔵は、これも幼くして亡くなった子供を祀ったものだと考えられる。そして、母を求める子と、子を求める母が一緒になってしまった。」


「こ、子供の失踪と、小銭小僧との関わりは?」

「小銭小僧も、不幸な子供の思念が集まった怪異だと思う。大人しく眠っていたのが、母に会って欲が出たんじゃないか。」


「欲、ですの?」

「〈小銭〉は、銭に執着するのは、銭があったら死ななくて済んだと云う思い、生活が楽になると云う思いだろう。」

「子供の失踪は、遊びに行きたいと云う、欲求だな。好奇心ってヤツかな。」


皆、黙ってタカアキの話を聞いている。


「恐らく、近くに来た〈生きている子供〉に乗り移って、今を生きている子供と共に、遊びたかったんだと思う。」

「失踪は、遊び過ぎて、水飴神社まで戻るチカラが足りなくなったんで、神社の近くまで来て貰ったと云う事だろう。」

「残っているチカラが少なければ、神社の近くまで来て貰い、多ければ、さほど近くなくても良かった。子供たちが

見つかった場所がバラバラなのは、そんなところだと思うよ。だから、大きな実害が無かった。」


「このままそっとしておけば良かったんだ。遊びたいだけなら、色々対策も出来る。だが……。」

「誰かが神社を壊した……。」

「お地蔵様も……。」


「うん。ゆうべ、コータ君とも話したんだが、恐らくテレビ番組を観た人間の仕業だと思う。」

「破壊する為か、単なるお参りで、破壊はその時思い付いたのか、どのみち、碌でもないヤツだ。お陰で……。」


「お陰で、人に〈仇なす存在〉になってしまった。」


この一言で、重い雰囲気がのしかかる。

何処の誰かは分からないけれど、馬鹿の所為で、取り返しのつかない事態になってしまう。


「で、みんなは、どうしたい?」

「助けたい。」


「駄目、危険だわ。ここから先は本部に任せましょう?ね?」

「これは、私たちが請け負った事件です。最後までやります。」

「でも、危険なのよ?怪我するかもしれないし、下手すると命だって……、」


「分かってます。でもボク達にやらせて下さい。」

「このまま離れる事は、出来ないです。」


「でも、……。」

「レモンさん。」

「はい?」

「もう少し、彼女たちに任せて貰えないかな?」


「タカアキさん!」

部外者は引っ込んで、と言いそうになったが、その言葉は飲み込んだ。

この事件を解決する為には、タカアキが必要だと思ったからだ。


「……、何か案があるんですか?」

「まあ、ね。これを見てくれ。」

そういって、紙袋から何か取り出す。

「あっ!赤ちゃん!」

「ええっ?」


タカアキがやさしく胸に抱えたのは、赤ん坊だ。

いや、違う。タオルや服を丸めて、それらしく見せてるだけだ。

だが、不思議と赤ん坊に見えてしまう。


「この赤ちゃんで、幽霊ママさんの気を反らす。」

「コータ君。」

「はい。」


今度はコータがポケットから封筒を出す。

何やら異様に膨らんでる。

「これで小銭小僧の気を反らします。」

ジャラジャラと、小銭が広がる。


「その隙に、何とか捕まえて、説得しようと思う。」


「……。」


思ったより反応が薄い。


すると、アカネが封筒を取り出した。

ジャラジャラと、小銭が広がる。


「ほう。」

「私たちも、同じ事を考えました。」

「素晴らしい!レモンさん!素敵な子供達じゃないか!」

「ええ!」


大人二人と少年は、嬉しそうだ。


「そして、このお金で小銭小僧を雇います。」

「なんだって?」

「そうなれば、大手を振って歩けるじゃないですか。」


「幽霊ママさんは?」

「託児所で働いて貰います。」

「素晴らしい!なんて素敵な考えなんだ!」


「サクラコちゃんのアイデアだよ?」

「お嬢様……!」

少年は、感動に打ち震えた。

「上手くいく!きっと上手くいくぞお!」

タカアキは大げさに喜んだ。

ちょっと芝居がかっている気がするが。

だが、タカアキの振る舞いを見た子供たちは、事件が良い方向に解決する事を確信した。


「そうと決まれば、直ぐ行こう!」

全員、急いで食べた。

勿論タカアキも完食だ。


一行は再びレンタカーで水飴神社へと向かう。

子供達の考えた作戦だ。

かなり大雑把だし、現実的に思い通りに行くのか、不安が先に立って当然だろう。


だが、誰もこの作戦が失敗するなんて、思っていなかった。

楽天的かも知れないが、必ず上手くいくと、いい結果になると、疑わなかった。


気分が高揚しているせいだろう。相変わらず暑いが、車を降りて歩いても、さほど気にならない。

昨日とは違って、直ぐ水飴神社に着いた。

相変わらず酷いありさまだ。

辺りはシンと静まり返っている。

風の音も聞こえない。


「サクラコちゃん。」

「ええ。」


アイデアを出したサクラコが一同を代表して、比較的形の残っている首のない地蔵の前に跪く。

「小銭小僧さん、出てらして。」

……。

「小銭小僧さん?」

サクラコは、封筒から小銭を出して、少しずつ地蔵の前に置いて行く。

小銭が積み上がって行く。

小銭が広がって行く。

チャラチャラと、静に小銭の擦れ合う音がする。


すると、朧気ながら、昨日よりさらに薄くなって、小銭小僧が現れた。

「うう……。」

小銭小僧は目の前の小銭と、サクラコやアカネ達を交互に見る。

「……。」

小銭小僧が、小銭の山に手を触れる。

すると、するすると小銭が吸い込まれていく。


と、同時に小銭小僧の姿が、はっきりして来る。

小銭小僧は、警戒を解いていない。

小銭を吸いつつ、凄い形相で睨んでいる。


神社の有った辺りから、幽霊ママが出て来る。

「おっと、貴方はこっち。」

タカアキが赤ちゃん人形を差し出す。

暫くの間、タカアキに抱かれた赤ちゃん人形を見つめていたが、やがて手を伸ばす。


そっと赤ちゃん人形を抱きかかえると、あやす様な仕草をする。

とてもやさしい雰囲気だ。


それを見ていた小銭小僧が、口を開く。

「あんたたちは何だ?何の用だ?」

「小銭小僧さん、私はサクラコ、私たちは敵じゃないの。貴方をスカウトに来たんですの。」

「スカウト?」


「ボクたちの職場で、一緒に働いてくれないかなぁ。」

「何だと?」

「このお金は、働いて貰う為の賃金です。」

「そうすれば、小銭小僧さんは此処に捕らわれずに、何処へでも行けるんですのよ?」

「何処へでも行ける……。」

小銭小僧は、考えてる様だった。


その内、幽霊ママが、赤ちゃん人形におっぱいを与え始める。

当然、胸が露になる。

「わあ!ダメ!」

アカネがコータの目を塞ごうとして、思わず目つぶしをかます。

「うわああ!目が!目があ!」


コータは転げまわった。


こうして、ゴスロリ♡5の初仕事は、一人の犠牲者も出さず穏やかな雰囲気の中、静かに終わろうとしていた。




「目が、目がああ!」

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