第2話 水飴神社の秘密 その6 戦闘。
暫し言葉が出なかった。
余りの惨状に、アカネ達は涙が出て来た。
意味が分からなかった。
みんな茫然としていたが、流石にタカアキとコータは、周囲に気を配っていた。
「誰もいないな。」
「まだ間もないですよね。」
「ああ。ここ一週間位か。それにしても……。」
誰が何の目的でこんな酷い蛮行を。
だが、このままにしておくのは、あまりに忍びない。
「この惨状を録画してくれ。」
「わかった。」
アオイが応じた。
「少し片づけよう。」
「ええ。」
何をどうしたらいいのか、分からなかったが、散らばっている木片を、石のかけらを集めた。
道具なんて持って来てないので何も出来ないが、じっとしていると、悲しみに飲まれそうだった。
風が、流れた。
ひぃぃぃぃぃ。
おぉぉぉ。
樹々のざわめきが、泣いてる様に聞こえる。
苦しんでいる様に聞こえる。
「触るな!」
声が響いた。
少年がいた。
弱弱しく、消えそうな、だが物凄い怨念を纏っていた。
知っている。
この少年を知っている。
彼は。
「小銭小僧さん……。」
アカネとモモとサクラコが〈ゴスロリ♡5〉になる切っ掛けとなった妖怪だ。
だが、以前にあった姿とは似ていながらどこか異なる。
それは憎悪だ。
小銭小僧から渦巻くような、途轍もない憎悪を感じる。
憎悪が殺気に変わった。
風が起こる。
石が、欠けた地蔵の欠片が、神社の木片が舞い上がり、アカネ達を襲う。
「ゴスロリ♡GO!」
アサギが変身した。
「エアーバリアー!」
アサギはゴスロリ♡グリーンになり、みんなを包み込む様に魔法でバリアーを張る。
バリアーは協力だが、まだ使い慣れていないせいか、それはまだ不安定なものだった。
「「「「ゴスロリ♡GO!」」」」
遅れてメンバー全員が変身した。
だが、攻撃の魔法は使えても、身を守る魔法を使えるのはグリーン一人しかいない。
レモンもクワレンジャー変身しようとしたが、丁度隣がタカアキだった為に、躊躇してしまった。
それは正体がばれてしまう事は勿論、変身する時に一瞬光の中に裸のシルエットが浮かぶからだ。
恥ずかしさが先に出てしまった。
流石にレモンも乙女なので。
因みに、YAT RANGERの男性陣も変身の時、一瞬光の中に裸のシルエットが浮かぶ。
誰得?
欠片や木片の礫は嵐の様に、ますます激しくなる。
かなり大きな欠片も混じる様になった。
それと同時に、小銭小僧の姿がぼやけて来る。
伝わるのは憎しみだけだ。
今迄、触れた事の無かった憎悪が襲う。
物理的な攻撃より、その憎しみがゴスロリ♡5の心を削って行く。
「やめて!コゼニさん!私たちは敵じゃない!」
ゴスロリ♡レッドが叫ぶが、心を閉ざしている小銭小僧には聞こえない。
ゴスロリ♡ブラックやゴスロリ♡ピンクも、この状況から抜け出す術を考えているが、何も浮かばない。
まともに考えられる状況ではないのだ。
男共は肝心な時に役に立たない。
タカアキはこんな状況なのに、壊れた神社の方を見ているし、コータは破片を弾き飛ばしながら、”お嬢様が一番かっこいい!”などと、
能天気な事を考えていた。
ゴスロリ♡ブルーはバリアーの外に出て、ウォーター・ウィップを投げ縄の様に使い、小銭小僧を捉えようと考えたが、
それにはバリアーを解いてもらわねばならず、そうすると、その一瞬で捕まえられるのかと、自問自答していた。
「お止めになって!わたくしたちは味方ですのよ!」
ブラックが叫ぶが、やはり反応は返ってこない。
そして、グリーンのバリアーが薄くなって行く。
「きゃあ!」
バリアーが破れた。
大きな欠片がレモンの頭部に当たってしまった。
「レモンさん!」
すかさず、タカアキがレモンを庇う。
が、バリアーは完全に解けてしまった。
グリーンがふらついて倒れそうになる。
「アサギちゃん!」
ブルーが思わず名を呼んでグリーンを支える。
「!この!」
レッドが思わずフレイム・ジャベリンを放つ。
「アカネさん!駄目!」
ブラックも思わず名を叫ぶ。一瞬でレッドも我に返ったが、既に解き放たれたジャベリンは小銭小僧の右肩を掠めた。
「ぎゃあ!」
小銭小僧は倒れた。
嵐が収まる。
恐る恐る小銭小僧に近づくが、今度はナニカに首を絞められる。
「ううう……。ううう……。」
壊れた神社から、髪の長い女性が現れた。
幽霊?
着物を着ている様であり、洋装の様でもある。
その姿は不安定で、見る者を不安にさせる。
憎しみでは無い。が底知れぬ悲しさが伝わって来る。
「くっ……。」
皆、首を絞められて、声も出ない。
その場で倒れ込む。
その悲しみに触れると、眩暈がして正気を保てなくなる。
必然的に、首を絞められている事の抵抗が、弱まってしまう。
「サクラコくん!」
タカアキが叫んだ。
タカアキの声でブラックが正気を取り戻した。
「……!」
声が出せなかったが、ブラックの魔法により、小銭小僧と幽霊は黒い沼に沈んだ。
「今だ!逃げるぞ!」
タカアキはみんなを抱えると、猛ダッシュで逃げた。
そして、あっという間に車まで戻って来た。
あれ?どうやって全員抱えたんだ?
「戦略的撤退だ!車に乗って!」
乗ると云うより、タカアキに放り込まれて、その場を後にした。
車の中は全員無言だ。
咽ている者もいる。
みんな涙目だ。
それはそうだろうとも。
ゴスロリ♡5はまだ10歳なのだ。
レモンはモモによって、包帯を巻かれていた。
傷にはなっていなかったが、内出血はしている様だ。額が紫色になってる。
一行はそのままホテルにチェックインした。
その様子に、”厄介ごとは迷惑だ”と言わんばかりのフロントの態度だったが、タカアキの一睨みで大人しく受け付けた。
「今日はこのまま休め。明日考えよう。レモンさん、病院に連れて行こうか?」
言っているタカアキも結構血を流しているが。
「大丈夫です。コブが出来ただけですから、ひとりで行けます。」
「分かった。また明日の朝、来るよ。どうするかはその時考えよう。」
タカアキはコータを連れて帰って行った。
コータは今更、役に立たなかったことを後悔している様だ。
憂い顔の美少年は絵になるのか、すれ違う女性が一々反応する。
ウザったかったが、コータも心に余裕等なかったので放っておいた。
レモンは病院に行こうとしたが、子供達を見ていたかったので、しばらく考えた挙げ句、結局全員で行く事にした。
大人一人に付き添いの子供が五人と云う格好になったが、彼女らも気にしている余裕は、まだなかった。
病院から帰ると、直ぐ夜になった。
食事は殆ど喉を通らなかった。
ここで解散しようとしたが、みんな一人にはなりたくなかったので、一つの部屋集まる。
集まっても、暫くは誰も口を利かず、沈黙が続く。
今日の出来事は怖かった。
今日の出来事は悲しかった。
言葉では足りない、心が訴える。
自然と、それぞれがこれからどうしたらよいか、考える様になって行く。
流石は妖精さんに認められた少女達だ。
死ぬかも知れなかったのだ。
本当に死ぬかも知れなかった。
憎しみで、悲しみで、心は押し潰されそいうだったと云うのに。
少女達は挫けていなかったのだ。
ここで逃げても、誰も文句は言うまいに。
少女達は事件を解決しようとしていたのだ。
大人に頼らずに。
「あの、子供達の行方不明は、コゼニさんの仕業だったと思う。」
「そう云えば、アカネちゃん達はその小銭小僧さんを知ってたの?」
「うん、前にちょっとかかわった。」
「そう、その時は小銭小僧は男の子に乗り移っていた。」
「モモちゃん、乗り移るって?」
「ワカンナイ。ただ、ある子どもの中からすうーっと出て来たの。」
「乗り移って、どうしたのかなぁ?」
「それもワカンナイ。でも、乗り移られた男の子は、なんか、平気みたいだった。」
余り会話は弾まない。
沈黙が続く。
「みなさん。」
何事か考え込んでいたサクラコが口をきいた。
「サクラコちゃん!」
いざという時に頼りになるのは、五人の中ではアサギとサクラコだ。
時としてサクラコは、みんなと違う考え方をする。
今、皆の視線がサクラコに集まる。
「お金、持ってますか?」
こけた。
アカネは椅子から落ちた。
「サクラコちゃん!」
「皆さんのお金を集めて、小銭小僧さんを雇う事は出来ないかしら。」
……。
……?
ナニヲユッテルンダ?
ヤトウ?
ヤトウッテ、
ヨウカイヲ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます