第2話 水飴神社の秘密 その5 無残。

次に日の朝、水飴神社に行くんだが、その前にホテルで軽い食事兼打ち合わせだ。

「移動は、行けるところまでレンタカーを借りよう。」


「遠いんですか?」

「それなりにね。それと、かなり歩く事になるから。」

「ええ~?」


この炎天下に歩くのか。

アカネ達は行く前からうんざりした。


「ピクニックと思えば、いいのですわ。」

サクラコは前向きだ。

そう考えれば、楽しくなるかもしれない。


まだこの時点では平和そのものだ。


「ただ、食べるところなんて無いから、お弁当を買って行った方がいいと思う。」

「この暑さで、悪くならないかなぁ?」

「クーラーボックスも買う?」

「運ぶの、大変だよ?」

「飲み物は?」


結局、ピクニック気分になってるよ。


食べ物と、飲み物と、全員の帽子を買って、いざ!出陣!

気合を入れて出発だ!


車に中は、冷房も効いてる快適空間なので、自然と会話が進む。

気分は探検家だ。


レンタカーは八人乗りだ。

運転席にタカアキ、助手席にコータが座っている。

後ろにアカネ、アオイ、アサギ。

最後にサクラコとレモン。


アカネは(とても恥ずかしかったが)思い切ってコータに話しかける。

「あの、妖怪はいると思いますか?」

この場合、その問いかけが適切かどうか、意見が分かれるところだ。


「いるね。」

即答したのはタカアキだった。

アカネ、残念。


「〈妖怪〉と呼ばれるモノ、現象は、だいたい〈人の思い〉が関わっている。人が作り出すのさ。」

「えっ?」

予想外の答えが返って来た。


「我が国は、地震に代表されるように自然災害が多い。その恐れ、自然に対する畏怖が、人の思念によってカタチになる。」

「また、恨み、つらみ、または強い怒りとか、怨念とか、動物に対しての哀れみ、その他もろもろの消化しきれない思いが、目に見える怪異となって、

〈妖怪〉と呼ばれる意味不明の存在になって表れる。」


「恨みとか、怒りは分りますが、動物の哀れみって?」

「惨い扱いとか、殺され方をした動物に対して、罪悪感や同情から恐れを抱き、たたる、化けて出るんじゃないかと考えてしまう。

結果、わざわざ恐れを具体的に出現させてしまう、実際の厄災としてね。」

「あとは自身の怨念が強すぎて、自ら変貌したりとか。」


「人が妖怪になるのですか?」

「そう。怨霊とかもそうだけど。」

「人もなっちゃうんだ……。」


「まあ、どんな〈妖怪〉でも、大体は悲しい物語を背負って生まれて来るのさ。そして、人に対して祟る、災いをなす。」

「祟られたら、困るんじゃないかなぁ。」

アカネとタカアキの会話に、アオイが参戦して来た。


「そうだね。祟られたらイヤだから、滅ぼしました、めでたし、めでたし。」

にこやかに話していたタカアキだったが、そう言った瞬間、笑顔が歪んで見えた。


「〈人でないモノ〉に変わってしまう程の恨みを与えた挙句、祟るからと滅ぼすんですの?」

「おかしくない?」

「おかしいと思います!そんな人には、罰を与えるべきだと思います!」

サクラコとモモとアサギが参戦した。


「ちょっと待って!滅ぼすんじゃなくて、仲良く共存する為に私達がいるんじゃない!」

「そりゃあ良かった。なんせ昔は有無を言わさず滅ぼしてたからね。」

この時点で、〈人外災害対策機構 D.E.M.A〉として話しているレモンと、只の一般人であるタカアキの会話が成り立っている事は

おかしな事なのだが、誰も気付かなかった。


「さあ、そろそろ車は終わりだ!歩くよ!」

「「「「「「ええ~?!」」」」」」

みんな歩きたくなかった。


都会っ子は炎天下に歩かないものなのだ。

そういうものなのだ。

シューワでは無いのだ。


ただ、サクラコは車に中で何もしゃべらなかったコータの事が気にかかっていた。

アカネもやはり、何もしゃべらなかったコータの事がが気にかかっていた。

気にかかった理由はそれぞれだが。


「どの位歩くんですか?」

「民宿のおばさんも〈水飴神社〉を知ってたんだけど、すぐそこだって言ってた。」

「田舎の”すぐそこ”は危ないですわ!”すぐそこ”が数キロメートルもあるんですのよ?」

「まあ、そう云う事だ!さあ、張り切って行こう!」

「「「「「「ええ~?!」」」」」」


みんな歩き出した。

結構な登坂だが、やはり人数がいると話しながら歩けるので、案外楽しい道のりだ。


「神社なのに、お地蔵様がいまだにあるのは、やはり、山奥なので〈神仏習合〉のままだったからですの?」

「いや、当時は村々があったから、然程山奥と云う感じでは無かったはずだ。」

「〈廃仏毀釈〉が無かったのは、多分、この辺りはメイジの敵だったから、捨て置かれたんだと思う。」


「メイジの敵?」

「そう、当時の武家の棟梁がわが身可愛さに、今まで自分に従って来た者達を差し出したのさ。存分に殺して下さいとね。」

「〈無血革命〉とか言ってるが、トーホクではかなり血が流れた。トーホクの武士達も、〈我は官軍〉と思って戦っていたが、

何時の間にか〈賊軍〉にされていた。〈御所〉を守ったのは彼等なのにね。」


「でも、メイジが勝ったから、近代化が進んだんじゃあ……。」

「メイジじゃにならなきゃあ、近代化出来ないなんて事は無いんだ。エドのままでも近代化はしたさ。」

「こないだテレビでやってた反射炉だって、活版印刷だってエドん時だぜ?上水と呼ばれる水道もあったし、和時計や解体新書、日本地図も

素晴らしい。列強に曝されてのことだが、オランダ製の蒸気軍艦だって持ってた。エドのままが良いとは言わないが、メイジである必要も無いんだ。

ひょっとしたら、別な時代になったかも知れないし、どの時代でも近代化は進んださ。」


「何もメイジになっていきなり近代化したんじゃない、エドでの教育が高い水準に達していたからこそ、可能だったんだ。メイジになって

やったことは、ダンスホールと軍拡化だよ。」


「ああ、そうだ、テレビだ!」

コータが参加した。

「何事です、コータ?ビックリしましたわ。」


「す、すみません、お嬢様……、あの神社、今向かっている神社の事がなんか引っかかっていたのですが、今思い出しました。

テレビでやっていました。」

「テレビ?」

「珍しいわね、コータがテレビなんて。」


「いえ、職員室に呼ばれた時、先生が見ていたテレビに映っていました。チラッと見ただけですが、神社にお地蔵様の

組合せが珍しかったので何となく記憶に残ったんです。」


「どんな番組?」

「いや、そこまでは……。」


「そろそろ昼だが、どうする?あと少しで着きそうなんだが。」

「このまま行きまーす!」

「そうだね、座れそうな場所もないし。」


「ええ~!」

「レモンお姉さん!もう直ぐだよ?」


だが、結局小一時間ほど歩いた。


「だーれ?直ぐ何て言ったの!」

レモンは青息吐息だ。

「まあまあ。」

「ほら、見えてきましたわ。」

「あれがそう?なんか……。」

「なんか……。」


不気味だ。

雰囲気あり過ぎ。

決して、鬱蒼として暗い訳では無いが。

むしろ、陽の光の中にあるんだが。


そして、着いた。


「何ですの?これは……。」

「いやあ……、まさか、こんな……。」

「酷い……。」

「誰が、こんな事を……!」


その神社は。

水飴神社は。


酷く荒らされていた。


木で出来ていた鳥居は折られ。

社は穴だらけで。

賽銭箱も粉々に。


そして、お地蔵様は。

数えて七体あるお地蔵様は。


一体を残して砕かれていた。


その残りの一体も。


首が無かった。



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