第2話 水飴神社の秘密 その2 発端。
6月は過ぎ、7月になっていた。
相変わらず殺人的な暑さだ。
「許さん!〈妖怪:モウショ〉め!退治してやる!」
今日もアカネは憤慨している。
ワカナの授業の休憩中に、チャタローが現れた。
「どうだい?みんな!」
チャタローが問いかける。
「まあまあ、かな?」
アカネが答える。
試験が近いので、アカネも真剣だ。
……、これでも。
実際、今迄何回かあった座学の小テストも合格点を出してる。
試験も合格するだろう。
只、魔法の制御に不安が残る。
アカネに限った事では無いが、みんな出力が大き過ぎるのだ。
アカネは炎の魔法だ。
炎を槍の様な形で発射出来る。
今の所、それだけだが連続して発射する事も可能だ。
但し、その〈炎の槍〉は当たると爆発する。
「フレイム・ジャベリン!」などと叫べばカッコイイが、掛け声は「ちゅどーん!」だ。
なぜか「ちゅどーん!」以外には何も起こらない。
アオイは水の魔法だ。
水を紐状の形で出せる。
まるで〈水の鞭〉を振るっている様だ。
あと、水を円盤の様な輪にして飛ばす事も出来る。
さしずめ〈ウォーター・ウィップ〉と〈ウォーター・リング〉と云ったところか。
〈水の鞭〉は絡めとったり、切り裂いたりする事が出来る。
〈水の輪〉はそのまま切断だ。
但し、魔法の使用可能な時間は短い。
アサギは風の魔法だ。
空気を弾丸の様に飛ばすことが出来る。
もう一つ、空気を纏って壁を作れる。
〈空気の弾丸〉はなかなかの威力だが、〈空気の壁〉は今の所範囲が狭い。
〈エアー・バレット〉と〈エアー・バリアー〉あたりが妥当な名前だろう。
サクラコは闇魔法だ。
最初、サクラコの説明では、「ヌプンでニュルンですわ。」と云う、訳の分からないものだったが。
実際、影が液状みたいになって、〈ヌプン〉(サクラコ・談)と潜れて、〈ニュルン〉(サクラコ・談)と何本もの黒い触手みたいなモノを出せる。
但し、影に潜っても、同じ場所からしか出て来れない。
えーと、何と呼べばいいんだ?
誰か教えて下さい。
モモは桃色魔法だ。
モモが教えてくれないので、謎魔法である。
幾ら聞いても、モモは真っ赤になって俯くばかりである。
「教官、よろしいですか?」
サクラコが質問する。
チャタローはアカネ達の”お兄さん呼び”も好きだが、サクラコの”教官”と云う呼ばれ方も好きだ。
「何だい?」
「私たちは、あまり強くない、メジャーじゃないザコ妖怪を相手にするのですわね?」
「そうだとも。」
「ならなぜ、こんなに強力な魔法を使えるのでしょう?」
「あっ、ボクもそう思う!必要ないんじゃなのかなぁ?」
「もっと、可愛らしい魔法が良かったです。」
「ええ~?カッコいいじゃない。」
「……。(真っ赤)」
「うーん、実は僕も疑問なんだよね。まるで、もっと強大な敵に対応している様な……。」
「こらっ!」
「痛てっ!」
ワカナがひっぱたいた。
「不安になる様な事を言わないの!」
自分でも大人げないと思ったのか、チャタローは口を閉じた。
「〈妖精さん〉に何か考えがあると思うんだけど、ここ暫らくいないんだよね。」
「今度〈妖精さん〉が顔を出したら聞いてみるとするか。さっ、それより練習だ!もっと上手に魔法をコントロールしないと!」
「「「「「はーい!」」」」」
みんな元気よくそれぞれの名前が書いてある部屋に入って行った。
いや、モモだけはのんびりと入って行ったが。
そしてついに試験当日。
みんな真剣に取り組み、無事終了した。
~試験中の描写はアカネが嫌がるので割愛しました。~
そして全員合格、晴れて五人の魔法少女がデビューする。
仮免だけど。
八月。
みんな夏休みだ。
今日は〈ゴスロリ♡5〉としての初仕事の為、〈人外災害対策機構 D.E.M.A〉本部に呼ばれている。
「みんなよく来た。」
総統自らお出迎えだ。
「さて、君たちに最初の仕事を依頼しよう。村﨑君。」
「はッ。」
チャタローお兄さんの言う〈ムラサキセンパイ〉が現れた。
顔は知ってはいるが、今迄話したことは無かったので、こちらも”初”と云う事になる。
「私はムラサキ、〈D.E.M.A戦隊 YAT RANGER〉では〈シレンジャー〉だ。」
長身で、此処には珍しく、爽やかなイケメンだ。
女性にもてそうだが、服装の趣味は頂けない。
紫色のスーツをきっちり着こなしている。
きちんとネクタイも締めている。
この暑いのに。
勿論、ネクタイも紫色だ。
「君たちには、〈謎の子供失踪事件〉を担当してもらう。」
魔法少女たちは少しざわついた。
子供の失踪事件?
なんか、大事件じゃないのか?
「子供の失踪なんて、そんな、大事件じゃないですか!」
「ボクたちに、解決出来るかなぁ。」
「私たちはまだ小学生ですよ?」
「わざわざ”謎の”を付けると、胡散臭さが増しますわ?」
「やるっ!」
モモ、アオイ、アサギ、サクラコが銘々思ったことを話す。
アカネだけが既に興奮状態だ。
「間違いなく〈失踪事件〉だが、子供達はみんな見つかっている。ただ、見つかった場所と、子供達の記憶に
問題があるんだ。」
「いなくなった子供たちは、此処から〈トウホク〉地方にかけて、その途中で見つかっているんだが、何故そんな場所にいたのか、
誰も覚えていないんだ。」
チャタローお兄さんが続ける。
「しかも、何日か、記憶に曖昧なところがあるらしいんだぜ。」
初めて会うオレンジ色のTシャツの、やたらガタイのいいお兄さんが言った。
「あ、俺は〈光寺(コウジ)〉お兄さん、カッコいい〈オレンジャー〉だぜ。」
自分でお兄さんって言っちゃうんだ……。
モモは思ったが、口には出していない。
”只者”ではないんだろうが、”只者”と云うより”胡散臭い”人だ。
なんか、胡散臭い人しかいないんだろうか、この組織は。
「でも……。」
モモは慎重だ。
「なに、危険な事にはならない。君たちには何故そんな場所にいたのか、その原因を調べて欲しいんだ。」
「勿論、大人を誰か付ける。」
「夏休みだろう?みんなで涼しい〈トウホク〉旅行だと思えばいい。」
「行くっ!!」
アカネは早い。
「でも、お父さんに言わないと……。」
アサギの云う事ももっともだ。
小学生なんだから、当然親の許可がいる。
「その辺は大丈夫だ。もう既に親御さんの許可は頂いてる。」
「おおっ?」
「え?!」
「あらっ?」
「ほう?」
「はい?」
五人はびっくりだ。
「ふふふ、驚いたかね?我が組織はいたる所に顔が利くんだよ。」
顔が利くって、そういう問題だろうか?
「良くあのお父さんが良いって言ったなぁ。」
「うちのお母さんも。絶対無理だって思った。」
「わたくしは……、おじい様なら悪乗りしそうですわね。」
「うむ。会長はノリノリだったぞ。」
「オジイサマ?カイチョウ?」
「あっ、ひょっとして、サクラコちゃんって、〈セカイのハヤミ〉?」
「ええ。そうですわ。」
「げえ!ニホンの、セカイのトップ企業じゃん!」
「サクラコちゃんと友達になっただけでも、ボクの両親は喜びそうだなぁ。」
「因みに我が組織の大口スポンサーでもある。」
「そんなお嬢様が、戦闘員してていいの?」
アカネよ、戦闘員じゃない、魔法少女だ。
「納得済ですわ。むしろ、世界を知る良い機会だって。」
四人の少女は、やはりお嬢様は別世界の住人であると納得した。
「今回は三泊四日になる予定なので、みんなの都合を聞いてからです。」
レモンお姉さんだ。
「付き添いは私なの。宜しくね。」
レモンお姉さんはウインクした。
「良かったです。」
「お世話になります。」
小学生とは云え、流石に男性の付き添いでは嫌だったので、みんなほっとした。
となると、せっかくの旅行だし、と銘々が頭の中で考え出した。
服装とか、持って行く小物とか、お菓子とか。
この時点で、友達との楽しいお泊り旅行(しかも涼しい所)に切り替わってしまった。
仕事なんだが。
だが、誰も最初のこの事件が、あんな大事になるとは、思っていなかった。
――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・――・
すみません、更新の日付を間違えました。
なので、〈水飴神社の秘密 その3〉は AM3:00に更新します。
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