第1話 結成!ゴスロリ5 その3 契約。

ひとしきり子供たちと遊んだ後、園内に通された。

案内されたのは入口に〈えんちょうしつ〉書いてある部屋だ。


「可愛いお嬢さん達。先ずは座って頂戴。」

「「「「はい。」」」

座ると同時に、先生らしきお姉さんがお茶とお菓子を運んでくる。


「えーと、どこからお話しようかしら……、茶太郎君の話だと、〈妖精さんの祝福〉を受けたみたいだけど……。」

「はい!そうです!」

元気よくアカネが答える。

「あの光ですか?」

モモが聞いた。


「そう、〈光〉。だけど、普通の〈光〉じゃないの。〈妖精さん〉が、〈みんな笑顔で暮らせる世界の、お手伝いをして欲しい〉と云う、

願いを込めた〈希望の光〉なの。」


「はい!お手伝いします!」

元気よくアカネが答える。


「アカネちゃん!だめよ?勝手に決めちゃ。みんなの意見も聞かないと。」

モモに窘めされたが、アカネは何故窘めされたか分からなかった。

アカネは自分の考えが万国共通だと思っている節がある。


「何をするのですの?」

当然の疑問である。

このまま何をさせられるか、分かったもんじゃないし、それがもし犯罪行為なら、堪ったもんじゃない。


「もんじゃー。」

アカネは勘が鋭かったが、役に立つことはあまりない。


「そうね。説明しないといけないわね。あなたたち、今日〈妖怪〉に会ったわね?」

「ようかい?」

「あの、〈小銭小僧〉さんですか?」

「あら、あの人が有名な〈妖怪〉さんだったのですね。初めて見ましたわ?」

「なんかようかい?」

アカネは話について行く気が無い様である。


「でも、〈妖怪〉さんって、もっと怖くて危険な存在なのでは無いのかしら。」

「どちらかと云うと、おまぬけだったものね。聞いたこともない名前だったし。恐怖は感じなかったなあ。」


「皆さんの疑問は当然だと思うわ。でもね、その〈怖くて危険な存在〉は、あらかた片付いてるの。」

「片付いてるって、みんな退治しちゃったんですか?」

「いえ、お話合いの上、人に迷惑を掛けないって、約束して貰ったの。」


「そうなんですか?案外物分かりが良いんですね。」

「中には言う事を聞いてくれないので、〈封印〉しちゃった妖怪もいるけど、退治してはいないわ。今わね。」


「今は、ですか?」

「ええ。昔は、ずうっと昔は、戦っていたのだけれど、今はそんな事、しないわ。」

「まあ、多少のチカラ技は使うけどね。もう命のやり取りはしないのよ。」


「なぜですの?」

「こちらの都合だけで退治してしまっては、平和とは程遠いもの。お互い共存共栄出来れば、それでいいの。」


話を聞く限り、血なまぐさい事にはならなそうである。


「今は殆どの妖怪が、私たちと共存しているわ。そう、有名どころは残ってないわね。でもね、世の中にはまだまだ知らない妖怪が居るの。」


「知らない妖怪?」

「水木先生に描かれない、マイナーな存在かしら?」

「サクラコちゃん、詳しいのね。」

モモは変なところで感心した。


「だから皆さんには、その妖怪たちの説得を手伝って欲しいの。大丈夫、強い妖怪は、もう居ないから。」

説得したのか、封印したのかは別として、雑魚妖怪しか残っていない、と云う事か。

「うーん、アカネちゃん、どう……。」

アカネは安らかに寝ていた。


「ねっ、手伝って貰えるのなら、お手当も出るし、〈妖精さん〉から頂いた〈特別なチカラ〉も使えるわ。」

「はいはいはい!やります!」

アカネはいきなり起きた。

アカネは寝起きはいい方である。


アカネの勢いに呑まれて、結局モモもサクラコも承諾した。

「それじゃあ、(仮)契約するわね。私たちは〈人外災害対策機構 D.E.M.A〉所属の……。」


こうして、取り敢えず、三人の〈(仮)魔法少女〉が誕生した。

時刻はもう夕方になる。

本契約は、本部で行う事になるので、今日は解散する事になった。

次の日曜日、本部に連れて行って貰う為に、待ち合わせ場所と、待ち合わせ時間を決める。



「よう、終わったか?」

茶太郎お兄さんだ。

年齢不詳だが、流石に小学校4年生ともなると、〈お兄さん〉と呼んであげるやさしさはもっている様だ。


「丁度いい、もうそろそろ村﨑先輩が戻ってくる頃だ。送って貰うといい。」

「はい、ありがとうございます。」


三人が園の外に出ると、一人の青年が待っていた。

青年迄行っていない、高校生くらいだろうか?中学生かも知れない。

幼さを持ちながら、大人びた雰囲気のある青年だ。しかもアイドルかモデル並みのイケメン。

イケメンと云うより、まんま美青年、いや、やはり美少年って感じか。


太っても無く、やせても無く、背も高いし、顔も小さい。勿論髪の毛もふさふさだ。

彼の前だと、顔で売ってるタレントや俳優はもはや公開処刑に等しい。

それ程、、存在感が際立っている。

ちょっとやつれ気味なのがまたそそる。


その、出来れば観賞用としてしまっておきたい衝動に駆られる美少年が口を開いた。


「お嬢様!」

「あら、コータ。」

「あら、ではありません!急にいなくなって!探しましたよ!」

「まあ、御苦労様。」

サクラコの知り合いらしい。

会話が嚙み合っていないが。


「あの、どちら様で?」

モモが訪ねた。

こんな時はアカネが率先して尋ねるのだが、なんか大人しくしている。


「失礼、お嬢様のお友達の方ですか?僕は斑鳩洸太朗と言います。お嬢様の第一従者です。」

「えっ?従者?」

「獣舎?」


モモは思った。今時〈従者〉なんて、時代錯誤も甚だしいじゃないかと。

アカネは思った。美しい猛獣使いの人か、美しいお掃除の人が登場したと。

大人しく見えて、やっぱりアカネはアカネだった。


「帰りますよ!またお稽古をさぼって!旦那様に叱られる身にもなって下さい!」

「男は細かい事は気にしないで良くてよ。おじい様には私から話します。」


なにやら揉めていたサクラコがアカネ達に身体を向けた。

「それでは、また日曜日に御会いしましょう。皆さまごきげんよう。」

「あっ、はい。さようなら。またね。」

「サヨウナラ。」


なんかアカネの様子がおかしい。

モモは隣のアカネに向かって、話しかける。

「ねえ、アカネちゃん……。」


モモは察した。

アカネは真っ赤になって、固まっている。

そして、その眼は去って行く美少年を完全にロックしていた。

しかも、その眼はハート型だ。


アカネも、どちらかと云うと、美少女のカテゴリーに入る。

黙って微笑んでいれば、だが。

今の真剣な眼差しはなかなかのものだが、口元がだらしなく開いていて、あまっさえ涎も見えるので、

とても残念な見た目になっている。


「アカネちゃん、帰ろうよ。」

モモはアカネを引っ張んたが、アカネは固まったまま動かない。


「アカネちゃん……。」

モモは、こんな親友を見るのは初めてだったが、なぜか午前中に会ったススム君に、とても、とても同情した。


暫くして、アカネは大きなため息をついた。

「モモちゃん。モモちゃんが見ている〈びーえる〉に出てきそうなひとだね。」

「そんなの見てないわよ!」

モモはいきなりの風評に憤慨した。


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