第1話 結成!ゴスロリ5 その2 勧誘。

「話は全て聞かせて貰ったよ。」

茶色いジャージのお兄さんは言った。

体付きは逞しく、顔はイケメンだ。

イケメンと言うより、濃い二枚目と言ったところか。


「何ですの?ストーカー?」

少女は訝しかった。

何の脈略も無く、突然現れたのだから、怪しむのは当然だろう。


「違う。僕は怪しい者じゃない。正義のヒーローなんだ。」

怪しさ全開だ。今の時代にここまで怪しいセリフも無いんじゃないか。

しかも初対面だし。


「証拠を見せてやろうか。いくぞ!チェンジ!チャレンジャー!といや!」

怪しい茶色い青年はジャンプすると、茶色い光に包まれて、マスクをかぶったヒーローに変身する。

スタっと着地と同時にポーズを決めて、こう叫んだ。


「世界の平和を守るため、蔓延る妖魔を駆除します。ヤットレンジャー!ここに参上!」

後ろがチュドーンと爆発した。

いちいち爆発する必要があるのか。

近所迷惑である。


「ふふふ。驚いたかい?僕は〈人外災害対策機構 D.E.M.A〉所属、〈D.E.M.A戦隊 YAT RANGER〉のチャレンジャーお兄さんだ!」

……、自分でお兄さんと言うあたり……。


謎の茶色いジャージのお兄さんは、謎の茶色いジャージプラス茶色い仮面のお兄さんに変わった。

幾分、茶色いジャージが派手になった。

そしてブーツ。


「でませんたい?」

「何が出ないの?」

「やっとれんじゃー?」

「疲れていらっしゃいますのね。」


「おかしいな、知らない?」

「知りませんわ?」

サクラコは容赦ない。

アカネとモモはどこから取り出したのか、アメを舐めてる。

自分は当事者じゃなくて、ただの観客ですとアピールしてるつもりらしい。

変わり身の早さは流石と言えよう。



「ええ~?割と活躍してるんだがなぁ……、それより君たち!さっきの〈光〉だが、あれは〈妖精さん〉が〈平和の戦士と認めた証〉なんだ。」

「平和の戦士?」

「え~、ヤダなあ、面倒くさそう。」

「ええ?カッコいいじゃん!」

アマネだけ反応が違った。


「ねえねえ、あたし達も変身するの?」

瞳をキラキラ輝かせて、アカネが聞いた。

「ちょっと、アカネちゃん!」

「いや、本部に行って、登録が必要なんだ。労働条件とか、最初に決めておかないとね。」

「行く!どこ?」

「アカネちゃん!!」

「だってモモちゃん!変身だよ?魔法少女だよ?」

アカネの頭には、早朝にやっているテレビアニメのキャラクターが渦巻いていた。


「はははは、そう来なくっちゃ!ではみんな!先ずは近くの支部にGOだ!」

「えっ?私は行かないわよ?」

「わたくしも、遠慮致しますわ。」


「そう言わずに。」

「え~、行こうよお、魔法少女だよ?〈妖精さん〉にも会えるんだよ?」


「興味ないなぁ。」

「わたくしも。」


「いや、君たち。これは名誉なことなんだよ?誰でも〈妖精さん〉に認められるんじゃ、無いんだよ?」

「モモちゃん!一生のお願い!一緒に行って?」

「アカネちゃんの一生のお願いは、何度もきいてるしなぁ。」


「そんなこと言わないで、ネッ、行こうよ。」

アカネは涙が出そうだった。

感情の起伏が激しいのだ。

よく通信欄に『落ち着いて、一回深呼吸してみましょう。」と書かれている。


「しょうがないなぁ、……、そちらの美少女は?」

「サクラコですわ。断りづらい雰囲気ですわね。わたくしもお付き合い致しますわ。」


「よし!決まった!そうと決まれば善は急げ!すぐ行こう。」


チャレンジャーと名乗ったお兄さんは近くの木に行って、パカっと木の幹の表面を開く。

扉を開けるように。


そこには30cm四方の区間があって、中に何やら掛かっている。

お兄さんはそれを取り出すと、おもむろに話し出した。

「あ~、もしもし?お疲れ様です。チャレンジャーですが……。」


少女達は、また訝がった。

何だろう?見たこともないモノだ。

黒いシャワーヘッド?みたいなモノが、カールコードで繋がれている。


「……。それじゃ、そういう事で。宜しくお願いします。」

「ねえねえ、それ何?」

アカネは好奇心の申し子だ。

「電話の受話器だよ。」

電話?受話器?

少女達にとって、電話とはスマートフォンだ、受話器は知らない。


「こんなことも知らないのか。やっぱりゆとりはもっと勉強しなくちゃ。」

少女達はゆとり世代では無い。このお兄さん、実際はいくつだ?


「それより、木の幹から取出しましたけど?」

モモはアカネとは違う所が気になった。

「え~、やっぱりモノを知らないなあ。昭和では常識だよ?」

そんな事あるか!とモモは思ったが、

「そうなんだ。」

「勉強になりますわ。」

アカネとサクラコは納得した。

「ちょっと!あんた達!」

モモは思わずツッコんだ。


「おっと、どうやらお迎えが来たようだ。」

見るとマイクロバスがのんびり止まっていた。

のんびり止まっていたのだ!

なぜならバスは〈猫に見えるが違う生物〉仕様だからだ。しかも微妙に違う。

微妙に違うのである。(大事な事なので、2回言った。)


バスの横には〈世界の自由と平和、そして愛 保育園〉と描いてある。

名前がどっかの宗教団体の様だ。

運転席からは、紫色のスーツを着た人が手を振っていた。

これはのんびりとしか、表現のしようが無い。


そうなのか?


「わあ!〈キ○ィちゃん〉だ!」

「面白いデザインですのね。」

「サクラコちゃん、知らないの?」

そこじゃ無いだろう!とモモは思ったが、どこからツッコんでいいのか、もう分からなかった。


「さあ!乗った乗った!」

「わーい!一番乗りィ!」

アカネが飛び込むように乗り込んだ。

「お先にどうぞ。」

「ああ、ええ、有難う御座います。」

モモは一人だけ納得がいかなかった。

次にサクラコ、モモ、最後にお兄さんが乗って、バスは走り出した。


いつの間にかギャラリーがいて、それぞれ拍手している。

こういうのは秘密じゃないのか?

正義の味方ならバレちゃいけないんじゃないのか?

誰も答えてはくれない。



そしてバスは走り去った。

「アカネちゃん……。」

少年Aことススム君を残して。

その存在感の無さは隠形の術?

もしや〈ニンジャ〉かも知れない。

観光客がいたら、インスタに上がっていただろう。

oh,Japanese-ninjya!



バスの中でアカねは終始ご機嫌だった。

謎の美少女に謎の組織、そして魔法少女。

さっき説明があったので、謎では無いのだが、

キラキラした妄想に入った彼女には通じない。

ある意味無敵である。


「へ~。サクラコちゃんはサクラーレなんだ。」

「さくらこちゃんでさくらーれ?」

「サクラーレルチェ。学園の名前ですわ。」

「アカネちゃん知らないの?超有名なお嬢様学校だよ?」

「へええ?」


アカネは入学金とか授業料が気になったが、口には出さなかった。

気を回したのではなく、とんでもない金額だったら、普通に話せないと思ったからだ。

事実、とんでもない金額に違いない。

アカネは勝手に結論を出した。

アカネは答えを出す時、理由をすっ飛ばして一瞬で思考が短絡するのだ。

よく通信欄に、『一度よく考えてから発言しましょう。』と書かれてくる。


「私たちは椚第一小学校の四年生だよ。」

「すみません、普通のガッコです。」

アカネは入学金が頭から離れなかった。


「着いたよ。」

紫色のお兄さんがが言った。

今更だが、そのカッコで歩いてんのかな?

「さあ、降りて降りて。」

いつの間にか変身を解いた茶色いお兄さんが言った。


そこは保育園だ。

看板に〈世界の自由と平和、そして愛 保育園 第四支部〉と書いてあった。

「えーと、……。」

既にモモはツッこむ気概を失いつつあった。



「わあ、ちゃたろうせんせいだあ!」

子供達が寄って来た。

以外にも、子供達に好かれているらしい。

そして、アカネたちを見つけた。


「おねえちゃん!あそんでえ!」

子供達が突進して来て、アカネにぶつかって行った。

ぶしし!

「うりゃ!」

アカネは子供たちを次々にうっちゃった。

「アカネちゃん!」

モモは転がって行く子供たちを気に掛けたが、

「皆さん喜んでますわ。」

遊んでもらっていると思っているのか、子供達には大好評だった。


「はい、皆さん戻りましょう。お姉さんたちはこれから、先生と大事な話があるんです。」

「あっ、えんちょうせんせえだあ!」

「えんちょうせんせい!あそんでえ!」

子供達が突進して来て、園長先生にぶつかって行った。

ぶしし!

「うりゃ!」

園長先生は子供たちを次々にうっちゃった。


以下繰り返し。

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