微少女戦隊♡ゴスロリ5

kanzoh

第1話 結成!ゴスロリ5 その1 始まり。


雨は降らなかったが、暫く肌寒い日が続き、新緑に季節はとっくに過ぎたと云うのに、

夏の到来はまだ先だなと感じている。


四月に学年がイッコ上がって4年生になったのに、1年からずっと同じクラスメイトなので、これと云って新鮮味はなく、感慨にふける事もないままゴールデンウェークに突入だ。


まあ、4年生ともなれば、もう子供でもないのだから、当然このくらいの感想は言えますわ。


……。


ウソです。本に書いてあった事をそのまま読んだだけです。


「トイレの鏡の前で、何気取ってんのサ!」

背中をバシンと叩かれた。


「モモちゃん!来てくれたんだ。」

「そりゃあね。アカネちゃんに任せたら、纏まるモンも解れだすから。」

何か失礼な事を言われた気がする。


トイレの鏡の前で百面相していたのは、ショートカットにショートパンツの

見るからに快活そうな女の子。

そして声を掛けたのはロブヘアーにキュロットスカートの同年代の女の子。

仲良しさんなのは分るとして、何やら訳アリの様子。


「それで、どうするの?いつまで駅のトイレに居るの?」

「出るよ!そろそろ来ると思うし。」

別にトイレが好きなわけじゃないし。

彼女たちは、行動に移した。


トイレから出たとたんに見つけた。


アカネ達と同年代と思しき男子が、とぼとぼと駅前の大通りを歩いて行く。

これと云って特徴のない、どちらかと云うと痩せている、黒ブチメガネの少年だ。

その姿は、まるで病人の如く、今にも倒れそうなくらい頼りなかった。

仮に少年Aとしておこう。


「モモちゃん、付けるよ!」

「合点だ!」


少女たちは、少年Aの後を付けて行った。

本人達は、上手に隠れながら追跡しているつもりだが、はたから見ればバレバレである。


そろそろ駅前商店街の営業時間になるのか、あちらこちらでシャッターの開く音が聞こえる。

さっき迄はさほどでもなかったが、それなりに人の行き来も出て来た。


休日なので、学生はいない。

その中を、小学生達が歩いて行く。


電柱の後ろに隠れながら、まるで忍者の如く、少年Aを追跡する少女二人。


「ママ。」

「しっ、見ちゃいけません。」

周りの人々は、怪しい少年少女に気付いていたが、誰も関わらなかった。


賢明な判断である。



やがて、商店街を抜け、民家が並ぶ通りに出た。

相変わらず、トボトボと歩く少年A、後を付ける少女達。


暫くすると、街並みも消え、道の両脇に田んぼが現れる。

隠れる電柱も少なくなってきたので、堂々と後を付ける少女達。

少年Aは気づかない。


その内、おしゃべりしだした少女達。もはや隠れる気は無いのか。


田んぼの並ぶ光景から替わって、樹々が見えだした。

少年は道を逸れ、樹々の間を入って行く。


「モモちゃん、近いよ!」

目的地に向かって歩く少年Aの歩みが、目に見えて遅くなった。


少し開けた場所に出た。

少年達がたむろしている。

5人、その内、いかにも頭の悪そうな、まるで昭和時代のチンピラと云った感じの

にいちゃんが前に出て来た。

これはこれで絶滅していなかったのか。


「遅かったな!持って来たんだろうな!」

挨拶もそこそこ、頭の悪いセリフを言って来た。


「はい……。」

少年Aはごそごそと封筒を取り出す。


カツアゲだ!

少女二人は思った。

熱血なアカネは直ぐに飛び出そうとしたが、別なところから声が掛かった。


「そこまでですわ!」

少年Aを含む少年達は、声のした当たりを見た!

少女達も見た!


そこには背筋を伸ばし、凛とした姿勢で少年たちに向かう、目も眩む様な美少女が、仁王立ちで立っていた。

ごく普通のワンピースにごく普通のロングヘアーの女の子だが、やたらゴージャスな雰囲気がある。


「貴方達の悪事は全て証明済ですわ!その封筒を少年に返して、大人しく解散しなさい!」

ビシィィ!と、音がするほど毅然とした動作で、昭和テイストのにいちゃんを指差す。

急展開に全ての少年少女が固まった。


「そして貴方!貴方は操られています!貴方の中にいる、汚れた存在は分かっています!」


アカネは思った。

指差しちゃいけないんだよ?

モモは思った。

カメラどこ?どっきり?


「此処は汚れた存在が居ていい所ではありません!さっさと出て行きなさい!」

指差された昭和テイストのにいちゃんは固まったまま、動けなかった。


「ひゃははは、良く分かったな!」

五人いた少年の内、端にいた一番小さな少年が、いきなり叫んだ。


そこにいた全員、指さした美少女も、指さされたにいちゃんも、アカネもモモも、少年Aも、首だけ回してその小さな少年を見た。

すると、少年大きく口を開け、よっこらせっと少年と同じ様な大きさの〈ナニカ〉が出てきた。

物理的にあり得ない光景だが、検証はどっかの物理学者に任せよう。

昭和の物理学者なら、「プラズマです。」と言うかも知れない。


それは、粗末な着物を着て、蓑を叉った小さな子供とも老人ともつかない、まあ、どちらかと言えば子供かな?人では無い〈ナニカ〉だ。

形容し難い〈ナニカ〉だあ!


いや、ちいさな子供って言ってるじゃん。


「オレは小銭小僧だ!」

ナニカが叫んだ。

「えっ、誰?」

そこにいた誰もが思った。

なんか妖怪(?)らしいが、誰も"知らない”。


「なんですの?」

「だから、小銭小僧だ!」

「知らないですわ?」


「なんだとう!オレ様を知らないとは!さてはキサマ!もぐりだな!」

「誰か知ってらっしゃる?」

「いや、しらねえ。」

「おれもしらねえ。」

「モモちゃんは?」

「知らないわよ!」

いつの間にか、少女二人も出て来ていた。


「お寿司か何かの、関係者ですの?」

「ムキィィ!キサマら、みんなやってけてやる!」


無名の小銭小僧の攻撃が始まった!

それは小銭を投げつけるものだ!

「必殺小銭嵐!これを受けた者で、無事な者はいない!」


「キャッ!」

美少女にもあたったが、アルミのお金が当たっても、別に痛くはなかった。

少々驚いただけだ。


「ぜえぜえ、おまえら拾うなよ!後で回収するんだから!」

小銭小僧が怒鳴った。


「ええと……。」

誰もがリアクションに困った。


「おおりゃ!」

小銭小僧にアカネのドロップキックがさく裂した。

「アカネちゃん!」

アカネは考えるより、行動が先に出る少女だ。

よく『動く前に考えましょうね』と通信欄に書かれている。


「ぎゃーい!」

小銭小僧は子吹っ飛んで行った。

「お、おぼえてろよ!」

捨てゼリフを残して、小銭小僧はスタコラ逃げて行った。

昭和から続く、伝統の〈お約束〉だ。


「ええと……。」

誰もが再びリアクションに困った。


「アカネちゃん……。」

少年Aがドヤ顔で佇む少女に向かって呟いた。

とてもバツが悪そうだった。


「ススム君、大丈夫?」

モモちゃんが声を掛けた。


美少女口を開いた。

「……、こ、これに懲りたら、まっとうに生きるのですわよ?」

昭和テイストのにいちゃんは叫んだ。

「オ、オレは何も悪い事、してねえ!」

「今カツアゲをしようとしてたではありませんか。」

「ち、違う、これは!これは、その……。」

にいちゃんは歯切れが悪かった。


「あっ、これ、ラブレターだ!」

いつの間にかススム少年から封筒をひったくったアカネが叫んだ。

途端ににいちゃんの顔が真っ赤になった。


真実はこうだ。この昭和テイストのにいちゃんは、ススム少年の塾の先輩で、ススム少年にらぶれたーの代筆を依頼したのだ。

ただ、受けとる時に誰かに見られると恥ずかしいので、こんな場所を選んだのだ。

青春だ。

昭和のテレビドラマの様だ。

絶滅危惧種として、保護すべきであろう。


結局、少女三人の勘違いだったが、このビジュアルでこの状況なら、誰でも勘違いするだろう。

仕方が無い事だった。


てへ。


そして、少女たちに罪はない。

無いのよ。

無いんだったら。


「チッ、帰るぞ」

真っ赤な顔をしたにいちゃん含む5人の少年は立ち去って行った。

小銭小僧に操らていた小さな少年も、何事も無かったかの様に歩き出した。

誰か気にかけてやれよ。


それにしても小銭小僧は、少年に取り憑いて、何がしたかったのだろう。


「アカネちゃん……。」

何か言いたそうなススム少年を無視して、アカネが美少女に語り掛けた。


「こんにちは。私は暮内茜、こっちは百地萌々ちゃんだよ。貴方は?」

「あら、こんにちは。私は速水・ビュクトリア・桜子ですわ。」

やはり、美少女は美少女の名前なんだ。

アカネは納得した。

アカネの納得方法は、常に謎である。


その時、少女三人に、頭上からキラキラした〈光〉が降り注いだ。

ゆっくり降りてくる感じで、〈光〉なんだけど、まるで意思を持つかのように、ゆらゆらと降り注いだ。

そして、少女達の身体を包み込む。

とても柔らかく、実際の温度は無かったが、暖かく感じられる〈光〉だった。


「これは?」

〈光〉を全身に浴びた少女三人は、身体の内から不思議な力が湧いて来るのを感じた。


「僕から説明しよう。」

いつの間にか茶色いジャージ姿の青年が立っていた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る