第8話 ☆ 伊香保の日記ー4 ☆

 あの女と、どうやってコンタクトを取るかが問題だった。

 教授のところへ行けばまた会うこともできる。電話でだって話せる。

 けれどあたしがあの女の正体に気づいていることを、彼氏くんに知られたくない。

 あくまで知らない素振りをして、彼氏くんにはぎりぎりまで内緒にしていたい。

 なら、彼氏くんの目の前で、不自然でない形でコンタクトを取らなくては。

 あたし達の目の前に二度も現れておいて名乗らないのは、どうしてだろうか。こっちが気づくのを待っているのだろうか。それとも単にからかっているだけだろうか。

 となれば、ひょっとすると向こうはコンタクトを待っているのかも知れない。

 そう考えて初めて出会ったサイトに出向いてみれば、案の定あの女はそこにいた。


 待ち合わせ場所には、彼氏くん一人で行ってもらうことにした。

 ネット上で同性相手に本気で恋していたなんて、今でも恥ずかし過ぎる。自分から直接会いに行く気にはなれない。

 それにあの女の思考回路はよく分からないのだ。

 ネットで会話していた当時でも、時々理解できない発言があった。頭のネットワークが基本的に人間とは異なるみたい。

 どこで怒るのか分からないから、なるべくなら会いたくない。ましてや殴るなど。

 危険なミッションだ。こういうときこそ男の子にお願いしよう。

 あたしは彼氏くんに「ガツンとヤって」と頼んだ。

 正直、期待していなかったけど、未遂とは言え本当に殴ろうとしたと聞いて心底驚いた。

 教授のときはあたしを止めたくせに。

 なんであたしがお願いするとやるのよ?

 胸の中が少しだけ、切ない。

 あ、あと、彼氏くん、自力であの女の正体に辿り着いたみたいだ。甘く見てた。

 結構、洞察力あるじゃない。惚れ直すわ(笑)。


 後日、あの女から彼氏くんを介して情報提供があった。

 教授にすら内緒にされた、願ってもやまなかった、喉から手が出るほど欲しかった情報。

 想定外だった。まさか、あの女が教えてくれるなんて。

 どうやら、あたしが贈った種もみのお礼のようだ。

 それはまあ、喜んでくれてありがたいと思う。

 おかげで重要な情報を手に入れることができたし、おまけに四人目の居場所まで分かったのだから。


 しかし……。

 あの女があたし達を監視しているのなら、どうして今になって姿を現したのだろうか?

 タイミング的には、彼氏くんとつきあい始めてから、すぐ、だ。

 だとすると、多分あたしの計画はあの女にもう見抜かれている。

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