ラストチャンスを逃さないで

月鮫優花

ラストチャンスを逃さないで

 君には三分以内にやらなければならないことがあった。いやまあ三分っていうのはちょっとした例えだけど。いつだってそうだったろ?

 それなのに君はずっと後回しをしてきた。

 例えば君が私に花をくれようとしたとき。君は上等な花を求めていろいろな花屋を回っていたよね。できるだけ綺麗な花を取り扱っていて、私の家から遠くない花屋を日が暮れるまで探していたよね。そしてどういうアレンジメントをすればより美しく見えるのかって、色や形の合わせ方がどうだとか、奥行きがどうだとか、たくさん勉強していた。花言葉についても熱心に向き合っていた。でも、そのうち君が目をつけていた花屋は閉店してしまったよね。

 あと、私に手紙を書こうって思ってくれたときも。君はより良い文章表現の追求のために古代から現代までのあらゆる文書に対する理解を深め博士号までとったらしいじゃない。そこまではもはやまあいいよ。君はインクにこだわって、紙にもこだわった。ここでもたくさんのデータを集めて、素材からデザインまで研究し尽くして、君は結局オリジナルのインクや紙を作った。けれどそれらは最終的に芸術作品として評価されて、もはや君自身だけの意思では使用できなくなった。

 何が言いたいかっていうとさ。ぐだぐだ悩んでチャンスを逃すより、まずアクションをキメて事を進めるっていう事を覚えて欲しかった。こんなことじゃあ最終目標から逃げてるのと同じなんだよ。花をあげたいなら適当にどこかからむしってくればよかったし、手紙なんてチラシの裏に走り書きすれば十分だろ。

 というか、花も手紙も本当はいらなかった。

 別に君のことが嫌いだから今までの努力を否定してやろうだとか、そういうわけじゃないんだよ。

 ただ、会いたかった。手土産なんてちょっとした事で、君と会えればそれだけで嬉しくて。

 だから私、今この瞬間がとても幸せでたまらないんだ。

 私は今から三分後、列車に乗って旅に出る。私は君が見送りに来てくれれば嬉しいとは思っていたものの、内心諦めていた。けれど、そんな不安とは裏腹に、君は大きなバラの花束と、厚い封筒を持って来てくれた。

 そんな君を見て、私はようやく、私だってずっと後回しをしていたんだって気づけたんだ。伝えたい気持ちがあるなら、とっとと言ってみればよかったんだ。

 「お別れは寂しいけれど、会えてよかった。ありがとう。大好きよ。」

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ラストチャンスを逃さないで 月鮫優花 @tukisame-yuka

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