ノアと暴走超特急
谷橋 ウナギ
ノアと暴走超特急
ノアには三分以内にやらなければならないことがあった。
神は人類を滅ぼすと決めた。大洪水で全て洗い流す。しかし動物達に罪はない。よってノアが彼等を救うのだ。
建造した巨大な方舟に、生物種のつがいを一組ずつ。猫もライオンもヒョウもチーターも、カラスもキリンもゴキブリでさえも。
兎に角、ノアは生物のつがいを、世界中から方舟へと乗せた。
そして最後の一種。だがしかし、そこには大きな問題があった。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群。彼等こそそれだ。
大洪水の前段階として世界は天変地異に見舞われた。その影響で彼等は暴走し、今まさに大地を駆け抜けている。
「ふむ」──と、ノアは動じずに、顎に右手をやって考えた。
救済が困難な道のりでも神はお見捨てにはならないはずだ。しかし如何すれば彼等の中から、つがいを選び助けられるのか。
「おーい、バッファロー君。ちょっと止まれ」
取り合えずあまり時間も無いので、ノアは群の前へと躍り出た。
そして案の定弾き飛ばされた。重傷で済んでむしろラッキーだ。
「ははは。まだ後、残り二分有る」
半ば包帯まみれになりながら、ノアは次の手段を考える。
バッファローの力は強大だ。しかも恐ろしい数の群である。仮にカバやクマやゾウであろうと、その突進を止めるのは不可能。むしろ彼等が怪我をしてしまえば、種が失われる危険すらもある。
「カー! カー!」
「ホーホケキョ!」
と、言う訳で作戦第二弾。鳥に説得をお願いしてみた。
彼等は風を掴み空を舞う。特別な力を持つ生物だ。バッファローが空を飛べない以上、彼等を傷付ける方法は無い。
しかし無視。当然の如く無視。
「はっはっは。アウトオブ眼中か」
ノアは笑いつつ頭を抱えた。
残り一分。最早時間は無い。取りうる策は残り後一つ。
「仕方が無い。では、最終手段だ」
ノアは言うと方舟の甲板に、赤くやたら目立つ旗を掲げた。
すると挑発されたと感じたか、群が方舟に向かい曲がり来る。搭乗用のスロープがあるので、昇ればやがては船の甲板だ。
押し寄せる群。キレるバッファロー。その横に控え、待ち構えるノア。
バッファローたちが鼻息も荒く、方舟の甲板を通り抜ける!
「どりゃー!!」
ノアはその側面から──絶妙のタイミングで飛び出した。巻いていた包帯を引きちぎり、太い腕の筋肉を現して。
そして二匹のバッファローを投げた。驚くべきパワーと洞察力。
残ったバッファローたちは止まらず、甲板を駆け抜けて向こう側へ。雪崩の如く方舟から落ちる。向こう側にはスロープは無いのだ。
「ふー。なんとか間に合ったようだ」
こうして大津波は発生し、全ての生き物たちは救われた。
今日、闘牛はノアの勇姿を残す数少ない催しである。だが人類は全て忘却した。彼の努力を、人の愚かさをも。
ノアと暴走超特急 谷橋 ウナギ @FuusenKurage
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