救われる決断をした。後の全てに意味は無い。

 この作品はいくつもの宇宙ステーションが飛び、人間の中には宇宙空間での現実的な日常生活が可能な者も登場するようになった大宇宙開拓時代と呼ばれる時代を舞台としている。主人公のエーラ・イーはそんな時代の宇宙ステーションで家族と共に暮らしている宇宙飛行士である。

 宇宙生物もありふれたものとなり、作中には宇宙イカに宇宙クジラ、そして全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れが登場する(宇宙バッファローと呼ぶべきか)。

 さて、KAC20241のお題は、書き出しが『○○は三分以内にやらなければならないことがあった』から始まることだが、自由挑戦お題として『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』というものが用意されている。

 あくまでも自由挑戦お題であるので難易度は高めというか出落ちにしかならないような存在であるが、この作品はその挑戦を真っ向から受け止めて、『全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ』を利用したシリアスなSFを書いている。

 と言っても身構える必要はない。

 エーラ・イーという名前で読者をくすりと笑わせ、彼女の家族の名前でも笑わせた後、明るく、わかりやすい文章でするすると物語を読ませてくれる。

 その結果、さっきまでくすくすと笑っていたはずが最悪の事態に陥っている。

 宇宙バッファローが彼女とその家族が暮らす宇宙ステーションに狙いを定めて突き進んできたのである。

 三分という短い時間制限、宇宙空間では助けを求めることが出来ないし、宇宙バッファローに通用するような武器もない。

 そんな中、彼女は宇宙バッファローの特性から自分たちを守るための策を思いついてしまう。

 鮮やかで残酷な結末に短編としての妙味が詰まっていて、素晴らしい短編SF小説であったと思う。


(KAC第1回アンバサダー企画お題「書き出しが『〇〇には三分以内にやらなければならないことがあった」/文=春海水亭)

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